無口な彼の熾烈な想い
「あっ、鈴先生。こっちこっち!」

集合場所であるK駅前ロータリーにはテントを張った動物譲渡会の特設ブースが作られていた。

「えっと、こちらのイケメンさんは?」

「本日の私の助手で瀬口さんです」

「なるほど。寒いでしょうけどよろしくお願いしますね」

今回のリーダーと思われる女性が近寄ってきて、鈴と絢斗を迎えるとにこやかに笑った。

絢斗は詳しい素性を聞かれるかと思ったが、鈴の助手ということで身元は保証されるらしい。

「鈴先生、久しぶり。ほらあの時の子元気になったよ」

大学生とおぼしき男性が鈴に近寄る。

親しげに鈴の腕を引く男性には、絢斗の姿は目に入っていないようだ。

「えっ、クロちゃん?今日来れたんだ。良かった」

鈴が男性の手に引かれて行くのを絢斗がジッと見ていると、すかさずリーダー格の女性がニジリ寄ってきた。

「瀬口さん、そんな怖い顔をしていたら動物まで萎縮しますよ。リラックス、リラックス」

差し出された缶入りのおしるこを見て立ち尽くす。

「甘いものでも飲んで、ほら、この子のお世話でも頼みますよ」

紹介されたのは大型犬の雌で、名前はチョビビといった。

眼瞼結膜は水色で目の回りは黒。

どう見ても狼にしか見えないその犬はとてもおとなしかった。

「名前・・・」

「あら、あなたもあの古い漫画を知ってるのね。この子、主人公の犬に似てるでしょう?鈴先生が名付け親よ?」

シベリアンハスキーと何かのミックスのこの犬は、ガリガリに痩せて放浪しているところを1か月前に保護されたらしい。

保健所で一定期間飼い主の申し出を待ったが現れず、ここの愛護団体に引き取られ今に至る。

大人しくお座りをしているが、ジッと見つめてくる視線が鋭く何となく怖い。

しかし、無表情と冷徹な顔なら絢斗も負けてはいない。

ジッと見つめ合う(睨み合う)こと数十秒、先に観念したのはチョビビの方で、彼女はゴロンと仰向けになると腹を出して降伏した。
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