無口な彼の熾烈な想い
「ちょっと、平野さん、なんて才能を隠してんの?もったいない」

「えっ?動物の絵は得意だけど、他はそれほどでもないよ」

高校の選択授業で音楽を選択した鈴は、絵を描いて他人に披露する機会はほとんどなくなっていた。

美術部で美術選択のかなえともほとんど接点はなく、仲良く絵を描く機会など一度も訪れなかったのだから隠すも何もないだろう。

動物の絵は、獣医を目指す鈴にとって解剖生理を理解するための゛挿し絵゛として活用していたに過ぎない。

決して2次元化したり、獸人化したりするためのスキルではないのだ。

「十分すごいよ。めっちゃリアル。ねえねえ、そんな鈴たんにちょっと相談があるんだけど」

そこからは、かなえの独壇場だった。

物言うことも許されず、あれよあれよという間に2次創作の世界に引きずり込まれていった。

強引な相手でも、わがままでさえなければ鈴は嫌いではない。

鈴の兄も両親も強引でマイペースなので、その辺りは日常なのだ。

゛異なる価値観・世界観でも、共感はできなくとも理解はできる゛

動物を相手にする職業を目指す鈴にとっては、この思いこそがベースでスタンダードだ。

この日を境に、マイペースで一人を好むことの多かった鈴は、初めて他人と関わる世界に身を置く楽しさを知ることになった。

< 24 / 134 >

この作品をシェア

pagetop