無口な彼の熾烈な想い
「・・・」

「・・・」

お互いの顔とスタイルを見て立ち尽くし、絢斗と鈴はしばらく見つめ合っていた。

二人とも目を逸らさない上に、かといって赤くなることもなくただただ見つめ合う。

端から見れば睨み合っているようにも、一目惚れして動けなくなっているようにも見える。

゛こりゃ、想像以上に推しメンにそっくりだわ゛

千紘の入れ知恵か、絢斗の格好はゲーム内で鈴の推しメンがUR(ウルトラレア)カードのスチルで着ていたスーツとほとんど同じに見えた。

そして鈴の着ているワンピース。

これは何故か、15時頃にお急ぎ便で鈴宅に届けられた一郎(本当は千紘)からの贈り物。

鈴は゛これを着ていけ゛との指定であったから素直に着用しただけだったのだが、それはまさに絢斗の好みドンピシャ、しかも髪型もメイクも絢斗のドストライクに仕上がっていたのである。

「ご足労をおかけします」

「ん・・・。乗って」

ようやく動き出した二人は、言葉少なに車まで移動した。

ツンツンのみの絢斗だが、意外にも助手席のドアを開けてくれ、鈴が乗り込むのを確認するとご丁寧にドアを閉めてくれた。

これはデレなのか迷うところだが、あれだけ強引な姉や姪がいるのだからルーティンワークと考えて良いだろう。

そうだ、そうに違いない。

鈴は、普段着とは異なる絢斗のイケメンぶりに内心動揺していることを悟られたくはなくて、自分にいい聞かせるように一人頷いた。
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