無口な彼の熾烈な想い
「座ってて。準備する」

鈴が椅子に腰かけたのを確認すると、絢斗は足早に部屋を出ていってしまった。

てっきり、二人きりで食事をさせられると思い込んでいた鈴は少しの間、呆気にとられていたが、思いがけない状況に安堵もしていた。

゛やっぱり三次元イケメン怖い・・・っていうか苦手だわ゛

観察に徹することで気を紡らわせようと試みもしたが、やはり長時間の沈黙は堪える。

兄のように無駄におしゃべりな男性も迷惑だが、無口すぎるのもちょっと・・・と考えていた鈴の静寂を破ったのは、安定の綾香おねえ様だった。

「迎えに行かせた絢斗は立派に紳士だったしら?鈴先生」

やはり迎えに行かされたのだな、と鈴は納得したが、特に失態のなかった絢斗を貶める必要はなかったので

「はい。無駄口も叩かず、丁寧な運転には安心感を得られました」

と答えてしまった。

「あら、やっぱりあの子、世間話すらまともに出来なかったのね。残念な子」

との、綾香の発言から鈴は自分の失言を悟った。

飾らない本心をさらけ出してしまったか、と反省したが、所詮は今夜限りのお付き合いだから構わないのでは、と思い直した。

「でもね、あの子の料理を見たら考えが変わると思うわ。きっと言葉よりも饒舌に想いを伝えてくると思うから」

゛残念な子゛

よばわりからの

゛身内贔屓゛

かと思われたが、このあと提供される料理の数々から、鈴は綾香の言葉が真実であると納得させられることになるのだった。
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