無口な彼の熾烈な想い
「本当に美味しそうに食べるのね。鈴先生は」

「えっ?顔に出てましたか?いまいち感情が分かりにくいってよく言われるんですが・・・もしかして口にも出してました?」

爽やかなレモン風味のソルベを胃の中におさめると、鈴はふぅーと満足のため息をついて満面の笑顔を見せた。

「このあとは一口パスタとデザートでおしまいよ。ここまで満足いただけたようで絢斗も喜んでるに違いないわ」

鈴は日頃から食にはあまりこだわりがないとはいえ、スタイルを気にして少食を気取るアイドルや玉の輿を狙う自称グルメのお嬢様方のように出されたものを残したりはしない。

果物であろうと野菜であろうと命を頂くことにかわりはない。

ましてや肉や魚は、動物の命を奪って人間がさばいたものだ。

感謝して食さなければバチが当たるというものだろう。

とはいえ、とても満足のいく食事だった。

面倒くさい、と来店を渋っていたさっきまでの自分を叱りつけたい位満足のいくディナーだった。

「こうして自分の好きなものばかりをアレンジして提供いただけるなんて贅沢、ありがたくてリピートしたくなるのがわかりますね」

そう呟いた鈴に、綾香は嬉しそうに笑った。

「この店のコンセプトはそこなの。食べたいものを好きなときに美味しく召し上がる。そのために事前の予約制をとっていて、前日までに予算と要望を伝えてもらえればお好みの料理が提供される仕組みになっているの。ご来店頂いたお客様一人一人に゛お好みカルテ゛というものも作っているのよ」

お客様一人一人の好みを詳細に把握していればシェフにとっては千人力となることは間違いないだろう。

しかし、その一つ一つに対応することは時間も労力もかかる上にコストパフォーマンスも悪い。

そんな中で確実に売り上げを伸ばし、知名度を上げている絢斗の腕前と綾香の経営手腕は相当なものなのだろう。
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