無口な彼の熾烈な想い
「それで、鈴先生の絢斗の評価は少しは上がったかしら?」

「瀬口さんへの評価ですか?私のような料理音痴が言うのはおこがましいですが、瀬口さんの実力は本物です。無口だろうが無愛想だろうが、そんな一面は些細なことだと思えるくらいの才能ですね。世間的にはそれで顔面偏差値も高いとか最強でしょう」

コンコン。

鈴がスプーンを置いたタイミングで個室の入り口がノックされる。

実はここの個室。

厨房を中心に放射状に個室が配置され、マジックミラーから中のお客様のリアクションをシェフが確認しながら調理できるようになっている(つい今しがた綾香によりリークされた)。

つまりは、鈴の反応も全て厨房の絢斗に見られていたわけであるが、声まで聞こえるわけではないらしいからプライバシーの侵害とはいえない。

あくまでも見ているのは表情だけらしいし、

゛ジロジロ見んなや゛

と、下世話なヤンキーのように怒りをあらわにすることもないだろう。

お客様の適時の反応から満足度や料理を出すタイミングを推し量っているらしい。

そんな細かい配慮も人気の秘訣なのだろう。

「無口で無愛想ねえ・・・。ああ見えてものすごく熾烈な熱情を内に秘めた子なのよ?料理へのこだわりを見たらわかると思うけど」

食事に付き合ってくれた綾香がクスリと笑う。

確かに、鈴に出されたメニューと綾香が口にしたメニューは異なり、それぞれの好みに合わせたものとなっていたし、盛り付け方にこだわっているのかイチイチ芸が細かかった。

鈴の料理は゛動物゛がコンセプトになっているのか、お皿のあちこちに、ソースで描かれた小動物の絵や食べることのできる人形が飾られていたのだ。

夢見がちな乙女でもインスタグラマーでもない鈴であるが、これには自然と笑みが浮かんでしまい、綾香の許可をとった上で、その一つ一つをスマホで写真におさめてしまうほど気に入ってしまった。

最後に運ばれてきたデザートはイチゴのタルトとシャンパンのフレーバーティ。

イチゴのタルトの横にはマジパンで作られたリスが両手を上げて゛召し上がれ゛と告げているようで、鈴は思わずリスの頭を撫でてしまっていた。

「鈴先生ならあの子の頑な心を溶かすことができると思うの。どうかあの子のお友達になってくれないかしら?」

綾香の突然の真剣なお願いに、鈴は驚いて視線を向けた。
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