無口な彼の熾烈な想い
「今日はたくさんお話ができて楽しかったです。ありがとうございました。綾香さん」

「こちらこそ、率直な意見が聞けて参考になったわ。ありがとう」

にこやかに微笑む綾香と向き合い、鈴はこの人とは純粋に友達になれそうだな、と思うのだった。

「ところで、兄夫婦は?」

「急用ができたとかで先程帰られたわ。鈴先生にもよろしくって」

゛あの野郎、逃げやがったな゛

都合が悪くなると逃げ足の早くなる千紘である。

商談とやらも気になるが、所詮、鈴は雇われ獣医。

何をやろうとオーナーである兄夫婦に従うだけだ。

人道に反する、悪徳ブリーダーのような人物と手を結ぶようなことでもなければ、大概のことは見逃そうと鈴は思っている。

「絢斗、きちんと鈴先生を送って差し上げるのよ?」

「ああ」

いつの間にか、鈴を迎えに来たときと同じカジュアルスーツに着替えていた絢斗が、またも忍のように、エンジン音のしないRV車を玄関の前に横付けして待っていた。

゛この車も忍術仕様なの?゛

音も立てずに現れる三次元イケメンとごつい萌車。

どんなファンタジーかと、鈴は笑いが込み上げたが、周囲の人にはなんで笑っているのかは不明だろう。

もしかしたら、ペットと同じで、愛車も飼い主(改め)持ち主に似るのかもしれない、と鈴が得意の妄想に耽っていると、またも絢斗が強引に鈴の腕を引きずり驚くことになった。

何事かと驚く鈴を無視して、絢斗は助手席に座るようにドアを開けて顎で促す。

「あらあら、絢斗ってば。鈴先生と早く二人きりになりたいからって強引にしてはダメよ?」

おいおい、ねえさん。

いくらなんでもこの態度で二人きりになりたいはないでしょ。

鈴にはどう見ても゛早く追い返したい゛と考えているような行動にしか見えない。

それでも、美味しい料理を提供してもらい、一方的に親近感を抱き始めていた鈴は、絢斗のツンツンのみ態度をおおらかな心で許すのだった。

「それでは失礼いたします」

助手席の窓を開けて頭を下げる鈴に、綾香はニコニコと手を振って

「またのご来店をお待ちしております」

とフロアマネージャーらしく頭を下げて見送る。

こうして、鈴の喪女生活からは程遠いお洒落な一日は幕を閉じようとしていた。
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