無口な彼の熾烈な想い

いきなりデレるとは卑怯な

「今日は美味しいお料理をたくさん作って頂き本当にありがとうございました。大好物ばかりで天国でした」

動き出して早々の車中、来るべき沈黙に耐えきれずに、初っぱなから鈴は絢斗にお礼をのべることを決意した。

いくら相手が無口で無表情とはいえ、社会人としては貰った恩にはきちんとお礼を述べるべきだろう。

たとえ、千紘や綾香の策略にのせられた形とはいえ、絢斗が誠心誠意、鈴のために料理を作ってくれたことには変わりないのだから。

「あんなに嬉しそうに完食してもらって嬉しかった」

おや?想定外の゛デレ゛を頂いた感じ??

゛ツンツンだけの王子様かと思いきや、心を開いた途端デレるとかテンプレかよ゛

と、この場にいたなら、オタクの大先輩かなえの突っ込みが聞こえてくるようだ。

なにか反応しなくてはと鈴も身構えるが、リアルの三次元イケメンの攻略には用意された選択肢は存在しない。

「こりゃ予習しとくんだったな・・・」

「なにか言ったか?」

「いえいえ」

呟いた独り言に反応されて慌てた鈴だったが、すぐに気を取り直すと、絢斗のことを獣医学部のただの同級生のモブの一人だと思って接するのがベストだと悟った。

とはいえ、誤って彼の方を直視してしまうとキラキラ光線に殺られてバグを起こしそうになるので要注意であるのだが。

「鈴・・・は、何でも旨そうに食べるんだな」

おっと、更に高度な名前のよびすて来ましたぁ~。

獣医学科の同期には゛平野゛が3人いたため、当時の同級生男子から゛鈴たん゛呼ばわりされたことがあるのはもはや黒歴史である。

しかし、同じ名前呼びされるのも、彼らと絢斗では顔面偏差値が違いすぎる。

好みのイケメンからのトキメキヒットポイント還元率は無限大なのですり減るライフが半端ないのである。

゛お主、さてはわかってやっておるな?゛

と、疑いたくもなるが、絢斗は養殖ではない天然君。

本来の素顔が見え隠れし始めてるだけなのだろう。

「普段は全く食にこだわらない、というか興味もないんですけどね。今日頂いた瀬口さんの料理は特別というか、想いの差ですかね」

鈴が首を傾げながら、うーんと呟くと、

絢斗は右手でハンドルを持ちながら、左手で口を押さえ

「ぐっ・・・!殺し文句だな」

と、小さく悶えるのであった。
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