無口な彼の熾烈な想い

動物園イベントには萌えがいっぱい

「すみません。わざわざ迎えに来ていただいたのに寝坊するなんて」

メイクもそこそこにエントランスから駆け出してきた鈴は、薄手のパーカーにジーンズ、足元はスニーカー、頭には日除けのサファリハット。

脇には、画材を詰め込んだ大きめのトートバッグという、男性との初デートにしては、かなりやる気のない出で立ちで現れた。

時間がなかったとはいえ、その気があるならワンピースぐらいは着てくるのではないか?と思われるのだが、年頃の女性とお日様デートをしたことなどない絢斗には何が正解かはよくわかってはいなかった。

息を切らしている鈴を見て、絢斗はわずかに微笑む。

なかば無理やり取り付けた約束なのだから、たとえすっぽかしても誰も責めないだろうに、鈴は真面目すぎるのだ。

「今日はなんのために動物園に?」

「相談したいことがある」

まさかの仕事の相談だった?

鈴はホッとすると同時に、なんだか納得のいかないような、不服なような複雑な感情に苛まれ首を傾げたのだった。

「ほら、行くぞ」

絢斗に促され、鈴が助手席に乗り込むと、絢斗がスマートに紙袋を差し出してきた。

「お腹空いただろ?食べな」

そこには、車の中でも食べやすいようにと配慮されたロール状のサンドイッチ。

汚れないようにラップも巻かれている。

女子力が高い。

さらに、お洒落なタンブラーには鈴の好きなフレーバーティーが入れられていた。

゛イケメンが過ぎる!!゛

鈴は脳内でのたうち回りながらも

「ありがとう。嬉しい」

と、瞳をウルウルと滲ませながら、はむはむとサンドイッチを頬ばるのだった。
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