無口な彼の熾烈な想い
「もしかして、昨夜、兄夫婦がフラケンで打ち合わせていたという商談絡みですか?」

フラケンとは、Flower of Kent at EASTの略称。

全部言うのが面倒くさ・・・いや、長ったらしいのでこちらで呼ぶ人が大半なのだそうだ。

通称は楽だし、綾香も、そう呼ぶことを絢斗が好んでいると言っていたので問題ないだろう。

「商談?ああ、姉さんがそう言ったんだな。・・・まあ、簡単に言えばそうだ」

姉さん、って呼ぶんだ・・・。

あのすでに鬼籍に入った、有名な元映画解説者兼俳優である高島さんの息子のように

『ねえさん、事件です!』

って言ってくれないかな?と鈴は思ったが怒られそうだからやめた。

本性のわからぬイケメンは、無駄に弄らないのが正解なのである、きっと・・・。

このところ、鈴が独想に耽りそうになるのを引き戻すのはいつも絢斗だ。

「新しいカフェの企画が出ていて・・・」

「カフェですか?絢斗さんの腕前なら、きっとたくさんのお客様が来てくださるでしょうね・・・」

お世辞でもなく本音だったから、照れもせずに言ったのだが、

「あ・・・そうかな」

と、絢斗が耳を赤くしてポツリと呟いたので鈴まで赤くなってしまった。

デレたりされると調子が狂う。

今日は1日、絢斗には無口な無表情で通して欲しい、と鈴は本気で思い始めていた。
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