無口な彼の熾烈な想い
パステルカラーで描かれた二人のイラストは、系統は異なるもののどこかしら雰囲気が似ていた。

「なんか癒されますね」

「同感だな」

先程の夫婦は、絢斗のことを可愛いものが好きなのだと断定したような言い方をしていたが、男であろうと女であろうと何を好きでも誰からも咎められる必要はない。

゛みんな違ってみんないい゛

とは、有名な詩人の言葉だったか。

繊細な料理の絵を描いたり、あの芸術的な料理を生み出すことのできる絢斗のことを、鈴は出会ってまだ数日であったが確実に尊敬していた。

「フクロウカフェ、実現したら素敵だとは思いますが、思い入れが中途半端な人が手を出したら絶対に後悔します。だから、絢斗さんのアイデアには私も賛成です」

動物と向き合いながらのカフェ運営は、余程の覚悟と動物への愛情がなければ共倒れになるだろう。

その点、イメージを膨らませることができる世界観を楽しむだけなら、お客も経営者も双方に負担は少ないだろう。

「鈴はクリニックだけでなく、イラストの副業とか大変だろう」

突然始まった謎の絢斗からの労りの言葉に、鈴はキョトンと目を見開いた。

「だが、乗りかかった船だと思って俺たちの相談にのってくれないか?」

今は鈴だけがベンチから立ち上がっていて、ベンチに腰かけている絢斗は鈴を上目遣いで見上げる形となっている。

それはお座りしておやつを待つワンコのようでキュン死レベルの可愛さだ。

言われていることは、正に、お礼のお礼のお礼・・・への無限のループ。

しかしもはやそんなことは関係ないとさえ思える自分が憎い。

鈴の中の、絢斗という存在は、デレなしツンツン三次元イケメンから、二次元推しとなんら変わりない好評価へとかわりつつ・・・いや、変わった。

気づけば、

「ええ、私でよければ喜んで」

と即答するほどに、警戒心と不信感に満ち溢れていた当初の鈴は姿を消した。

俺様でも、冷徹でもない、ただの不器用な男。

そんなリアルな男の切なさに、鈴はどんどん魅了されていくのだった。
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