無口な彼の熾烈な想い
かといって、二人が突然多弁になったり、リア充になるはずは、ない。

帰り道の車内でも、決して会話が弾んでルンルンというわけではなかった。

しかし、その静寂が二人の間を取り巻く不穏な空気から来るものではないことを理解している二人には、その静けさはむしろ安心感をもたらし、無駄な緊張を強いられるものではなかった。

たまに、流れていく景色の美しさに驚いたり感動したりしながらたわいもない話題で微笑み合う。

男性と二人きりでこんな穏やかな時を過ごせるとは、鈴は想像もしていなかった。

そうしているうちに、いつの間にか絢斗のRV車は静かに鈴のマンションに到着していた

「本当に夕食(ご馳走しなくて)・・・いいのか?」

「はい、今日作ったこのキャラデザイン、今夜中に完成させてかなえに送信しておかないと。なにせ明日からはまたクリニックの仕事ですから」

帰宅途中、絢斗はまたもあのフラケンで食事をご馳走すると言ってくれたのだが、締め切りが差し迫っていた鈴は、名残惜しくも丁寧に断りをいれた。

「本が出来上がったら教えてくれ。絶対買うから」

「関係者には出版社から発行本を数冊プレゼントされることもあるんです。貰ったら一冊差し上げますね」

「いや、それだと印税が入らないだろ」

「フフ、そこまで考えてもらえるなんて関係者冥利に尽きますね」

印税まで気にしてくれるとは、やはり絢斗は言葉はぶっきらぼうでも根本的に優しいのだ。

「今日はありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「それじゃ、また」

「ええ、いずれまた」

お礼や挨拶をキチンとできる人は意外と少ない。

゛だから絢斗は素敵な人゛

鈴は時折チラチラと振り返りながら、車に乗り込んで消えていった絢斗を見送りながらそんなことを考え、満足した面持ちで自宅へ向かうのであった。

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