無口な彼の熾烈な想い
「俺は新たなリスクを背負うことで今ある店舗を潰したくはない。だからこそ何らかの策を講じて、今あるものを活かしていきたいんだ」

外では無口な絢斗も、綾香とルイ、花菜の前だけは比較的良く喋る。

だが、今のように自分の意見を押し通そうとしたり、他人の意見を否定したりするようなことは一度もなかった。

゛捕まったまま飛び立つことを諦めていた蝶が、今まさに飛び立とうとしている・・・!゛

そんな吟遊詩人が語るような文章を頭に浮かべながら、綾香は一人感慨に耽っていた。

何が絢斗を変えたのか?

それは言わずと知れた゛鈴゛の存在であろう。

動物園イベントやスケッチイベントで、絢斗と鈴にどんなやり取りがあったかは教えられていない。

だが、頑なだった絢斗の変わり様を見れば好印象であったことはわかる。

「そうね。私もその意見には賛成だわ。絢斗の考えを知りたい。詳しく教えて」

「これなんだけど・・・」

絢斗の無表情な顔にうっすらと照れと笑みが浮かんだように見えた。

親しい者にしかわからないこの変化に、鈴も気付いてくれているのだろうか?

綾香は、絢斗が差し出してきたスケッチブックを手に取ると、嬉しそうにその表紙をめくっていった。
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