無口な彼の熾烈な想い
「アニマルズプレート完成したんだね」

「ああ、プレート単品だけでなくコースにも対応するつもりだ」

動物園デートから五日経った木曜日の夜。

鈴はまたしてもフラケンのVIPルームに招待されていた。

今日の担当シェフは絢斗ではなく、綾香の夫で絢斗の師匠でもあるルイ。

サーブは前回同様、ホスト1号、否、イケメンギャルソン三崎である。

「今日は俺が描いたイメージに添って、師匠・・・俺の義兄でもあるルイがコース料理を作って提供してくれる。鈴には率直な意見を聞かせてもらいたい」

「あの絵がお料理になって実際に出てくるのね。素敵。待ち遠しいわ」

この5日間、絢斗と鈴はSNSのトーク機能を使ってやり取りをしてきた。

顔を合わさずに文字でやり取りをしたお陰か、緊張せずに会話することができるようになり、絢斗の申し出もあって鈴は敬語ではなく普段の言葉で話すようになっていた。

「ソーシャルディスタンスとか宅飲み推進とかで、現状、飲食業界は厳しい。新しいことをやっても客は増えないかもしれないが、こんなご時世でも何か夢や希望を与える何かがしたいんだ」

確かに鈴の勤めるひらのペットクリックも来院者(ペット)が減っている。

しかし、病気の動物が減るわけではないし、人間の都合で病院への受診を制限するのは勝手過ぎる。

どの業界もかつて常識だったことは何一つ通用しなくなり、生き残るためには考え方を切り替えて、何らかの工夫をしなければならない。

「在宅に訪問して料理を提供したり、場合によってはケータリングに似た形態がとれないかとも考えているんだ。それなら自宅にいても特別感が味わえるだろう?」

夢や希望を持てない現状だからこそ、ほんの少しでも現実を生かした喜びが必要。

多くは語らないが、そんな絢斗の優しい心が見えるような気がして、鈴はなんだか嬉しくなった。
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