無口な彼の熾烈な想い

ヒール登場

「あら、勝手に計画変更を企てたHeel(悪役)ちゃん。ご機嫌はいかがかしら?」

ノックもせずに、いきなりVIPルームに現れた若作りなメイクにド派手な服装の女性。

゛その発言といい、身なりといい、悪役(令嬢)は貴女ですから!゛

と、鈴は頭のなかで突っ込まずにはいられないほどに驚いていた。もちろん無心を装ったが。

「・・・」

「従順なはずのあなたが私に逆らって計画を変更するとか、どういう了見なのかしらね?しかも、しばらく見ないうちに、また容姿も服装も男らしくなっちゃって。気持ち悪いったらないわ」

うわあ、言動まで悪役令嬢そのもの。

絢斗はうつむいてしまって何も言わないが、おそらく顔つきや容姿が似ていることからも、この女性が絢斗の母親であることは間違いないだろう。

「そちらの女性はどなた?まさか、Heelちゃんを唆した張本人ではないでしょうね?ことと次第によってはわたくし許しませんわよ?」

「はじめまして。絢斗さんの友人で獣医の平野鈴と申します。この度は、アニマルカフェを開店するにあたり助言をさせて頂いております。あなた様は絢斗さんのお母様でいらっしゃいますか?」

「男を生んだ覚えはありませんけどね。世間では母親と認知されているでしょうけど」

この悪役令嬢の言動から、鈴は早々にこの女性を絢斗にとっての毒親であると認定した。

「アニマルカフェを運営するには、知識や資産だけでなく、深い愛情と躾をするための忍耐などが必要になります。ましてや多頭飼いとなれば、その体調管理や糞尿の世話など果たすべき課題は山積みですよ」

「あら、そんな面倒なことはHeelちゃんにさせるわよ。私はたまに可愛い姿さえ見られれば満足なのだから」

゛まるでシンデレラを苛める継母だな、綾香さんが一緒になって苛める義姉のようにならなくて良かった゛

と、鈴は心から思った。

「絢斗さんはオーナーシェフですよ。そんな余裕は持てないと獣医である私が断言します」

鈴が胸を張って笑顔で答えると、

「あらあなたは動物のお医者さんなのね?あなたはチョ◯っていうシベリアンハスキーが出てくる漫画をご存知?私はあの漫画の大ファンなの」

「ええ、知ってます。祖父の動物病院に全巻置いてあって昔読みました」

「まあ、そうなの?若いのにあの漫画のような苦労をして動物のお医者さんになったのね。あれは男だらけの漫画だったけど名作だわ」

何故か、ちょいちょい男性を蔑む言動を入れてくる悪役令嬢。

鈴は、悪役令嬢の悪意が絢斗に向くことがないように、自分が唆して計画変更を余儀なくさせたと思わせたかったのだが、鈴よりも根深そうな悪役令嬢は、どうしても絢斗(というか男性)を悪役にしたいらしい。
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