無口な彼の熾烈な想い
「お母様・・・!」

慌てています、と言わんばかりの悲痛な声をあげながらVIPルームのドアを開けたのはフロアマネージャーで絢斗の姉の綾香だった。

「あら、綾香ちゃん。はしたないわね」

同意も得ずに入ってきた自分のことは棚に上げて、彩月は悪びれてもいない。

「お母様、いつの間に店に紛れ込んだのですか?絢斗には私から話をすると言ったでしょう?5年も会うことはなかったのに、今さら絢斗を振り回すのはやめて下さい」

なんと、彩月は実の息子に5年も会っていなかったというのか?

何らかの事情が考えられるとはいえ、他人からは毒親に見えても、実際問題、絢斗が彩月のことをどう思っているのかは今のところ不明である。

鈴は心強いシンデレラの実姉の登場に期待し、黙って先行きを見守ることにした。

「それより、綾香ちゃんのその地味な格好はなんなの?いつも可愛い格好をなさいって言っているのにわからない子ね」

フロアマネージャーの綾香の格好は、エンジ色の上下ユニフォーム。

シックな装いで、フラケンのイメージを壊さない妥当なものである。

「それにここの従業員、男ばかりで落ち着かないわ。全部女の子に代えてメイドカフェにでもすれば流行るんじゃない?」

アニマルカフェにメイドカフェ・・・。

フラケンはイケメンホストカフェ・・・いやいや、もとい、イケメンギャルソンカフェとしても有名。

決して流行っていないわけではなく、むしろ話題沸騰中でそこそこの利益を上げている勝ち組だ。

敢えて秋葉原化を狙う必要も、奇をてらう必要もない。
< 88 / 134 >

この作品をシェア

pagetop