無口な彼の熾烈な想い
「余計なことかも知れませんが、女の子として育てたかったとおっしゃるわりには゛絢斗゛って男らしい名前をつけたんですね?」

本当に余計な質問かも知れなかったが、いかんせん鈴は 疑問をそのままにしておくことは基本的にできないたちだ。

その場に相応しくないと判断したなら空気を読むが、この話の流れならこの質問はありだろう。

「男の子の跡取りが欲しかった祖父が最後はごり押ししたのよ。母が欲しがっていたブランドもののネックレスと引き換えにね」

なんと゛男の子を女の子として育てる゛という信念をネックレスへの執着であっさり曲げるという単純さに、鈴は彩月へのがっかり感が増した。

「ちなみに私たちの父親の名前は遥希っていうの。父は次男だったから長男との確執を避けてほしくて祖父が男女どちらともとれる名前をつけて女の子のように育てたらしいわ」

瀬口家はかつて華族として名を馳せた名門らしい。

遺産相続や跡取り問題など名家にはいろいろ大変なことがあるんだなぁ、と鈴はミミズクのパンを齧りながら呑気に考えていた。

「あの子は高校を卒業するまで、女の子の格好をさせられていたことをからかわれ虐められてきたの。そんなあの子のこと、鈴先生は情けないと思う?」

唐突な綾香の質問に、鈴は首を傾げる。

「そんな育ち方をしたなら誰だって無口で無表情になると思います。少なからず毒親に育てられた私も喪女で若干、男性不振ですよ?」

子供の成長が、周囲の大人や育った環境に影響されるのは仕方ない。

そんな中で、思うように夢を描き、理想的な自我を確立できるのはほんの一握りの人間だけだと鈴は思う。
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