央弥は香澄のタオルしか受け取らない

毎日お昼に会って剣道を教えてもらう。
いつの間にか香澄は央弥と他の話もするようになっていた。

香澄はいつもお弁当だったが、央弥は買ったおにぎりや、ごはん、購買のパン、ばかり、香澄は正直ものすごく気になっていたが、口を出す事も出来ずにいた。

ある日、香澄の視線に気が付いたのか、央弥が、

「あ、これ?」

と、指さし苦笑した。
その日の央弥は、丸めてラップに包んだだけのごはんを持ってきていた。

「香澄の弁当はいつも丁寧だよね」
「自分で作ってるんですよ」

と香澄が答える。

「それはすごいな」
「えへへ、そう言っていただけると嬉しいです!料理は好きだし得意なんです。でも、いきなり部活に差し入れするようなのも変だし、得意でも使い道がないんですよね」

と残念に笑った。

「俺は母親が病を患っているんだ」
「えっ?大丈夫ですか?」

と、香澄は思わずその場に立ち上がって言った。
央弥はそんな香澄を見て座るよう促し、安心させるように少し笑った。

「リュウマチ。早期で治療しているので、ほぼ大丈夫なんだ。晩御飯は作ってくれている」
「リュウマチ⋯⋯ 」
「だけど、朝は手が強張るので弁当が作れない」

(それで、)と香澄は思った。
央弥の昼ごはん意外だと思ってた。らしくない感じだった。

「じゃ!私、」
「うん、なんか言いにくいな、」

香澄は作らせて欲しいと言いにくい、央弥は作って欲しいと言いにくい。

お互い言いかけて、思わず目を合わせてふふっと笑った。

「私、私に作らせて欲しいです!」

と香澄が言った。

「作って欲しいと思う」

と央弥は言った。
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