央弥は香澄のタオルしか受け取らない
(お弁当を渡すことになった!)と香澄は高揚した気持ちでいた。
央弥の低い声が頭の中でぐるぐる回る。

『作って欲しいと思う』

香澄に央弥が言った。
央弥の目に捕らえられたみたいに、周りが全部見えなくなって、魂が吸い込まれそうだった。

央弥は香澄に出来る事で手伝えるようにしてくれた。
自分には何もないと不甲斐なく落ち込んでばかりの香澄に、ちゃんと得意な事で貢献させてくれる。

(また央弥に助けられてる)と香澄は思った。

新たな使命や目的、少しでも役に立つ自分、それがどれだけ大事なことか。
央弥の一言で香澄の気持ちは大きく変わった。
彼は香澄を守って次に導いてくれる。
央弥にそんな大それた気持ちがなくても、やってもらった本人には本当に大きな意味がある。
自然にそうできる央弥は、やはりすごいと思うし自分も人にそうでありたいと思う。
不甲斐ない自分をそのままにせず、高みに引き上げてくれる人に、自分の精一杯でしてあげられる事が出来た。
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