央弥は香澄のタオルしか受け取らない
日に日に気温が上がっていく。

彼は汗をかいている。
優雅に髪をかき上げた、彼の額に光る汗⋯⋯ 。
(今なら、自然に渡せるかもしれない)
今なら央弥にタオルを渡してもいいんじゃないか。
でもそのタオルには意味がある。

『好きです』の告白。

それはものすごく勇気のいる事だった。

香澄は毎日毎日、一緒に過ごす時間と同じだけ好きが増えていくような気がしていた。
これ以上好きなんてないと思うのに、翌日もっと好きと思っている。

正面切って渡す事がどうしても出来なかった。
お弁当を渡すのと一緒にさりげなく⋯⋯なら⋯⋯ 。

タオルの告白に頼ってしまう。
本当は言葉で言うべきだろうに、誤魔化したように、逃げたように⋯⋯ 。
こんな勇気のない告白、許されるだろうか⋯⋯ 。

でも、前日に、激しい練習の後、手ぬぐいだけでは吹ききれない汗が、着替えた後のパリッとした制服のシャツに沁みているのを見たから、渡したいとその時思ったから、もう心がいっぱいになったから。

香澄はお弁当の袋に、タオルをいれて渡した。
その日の昼は、たまたま央弥は部長会議に出なくてはならなかったので、そのまま央弥はお弁当ごとタオルを持っていった⋯⋯ 。
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