央弥は香澄のタオルしか受け取らない
だから、翌日、爽やかな笑顔と共に律儀(りちぎ)に洗ってタオルを返された時、どうしていいかわからなかった。

「助かった。タオルが一枚では足りないね」

と彼は微笑んだ。
にっこり、
すごく嬉しそうに。

「⋯⋯ 」

これはどう言う意味なんだろう⋯⋯ 。

香澄はさっきまで、央弥がタオルを、香澄の告白をどうしようと思ったんだろうと、気が遠くなるほど考えていたのに。
顔を合わすのが怖くて、それでもお昼にお弁当を持って約束の中庭に来たのだ。

「央弥先輩⋯⋯ 律儀なんですね」

と、何とか香澄は言った。
こんなの、思いもしなかった、洗濯して返されるなんて。
しかも拒否ではなく、晴れやかな笑顔でお礼の言葉まで言って受け取って⋯⋯返す⋯⋯ 。

「えっ?」

と央弥が言ってから、

「律儀というか、みな、堅物とか言ってるんだろ?」

と央弥が苦笑した。

「真面目すぎてつまらない?」
「そんな!真面目っていい事じゃないですか!律儀で真面目で!いい事です!」

香澄はもう、なんだかよく分からない、律儀に真面目に『香澄の気持ちは受け取りはしない』という事かと央弥の態度を(なじ)りたくなり、それなのに、それを央弥の長所だと(かば)いたくなる。

央弥はその後も香澄のタオルを、ありがと、と優雅に受け取る。
でも必ず洗って返してくる。助かった、と言いながら。

これがそのまま、私たちの関係なんだろうか。
なんか央弥らしくないような、中途半端な、真面目なんだかどうなんだか分からないよ、と香澄は喉元まで出てきて言えなかった。

香澄は何かしてあげたい、彼はきちんとその気持ちをそのまま返してくる⋯⋯ 。
そういうプラマイゼロの関係ってこと?

私から貰いっぱなしが嫌なんだろうか、真面目な人だから?
好きって気持ちすら返してきているの?

いいのに。
あげっぱなしでいいのに。

香澄の渡した物、全部を、央弥は貰いっぱなしでいいのに、真面目にきちんと返されるから自分の気持ちがぐるぐると()まってなんだかな、もどかしいし、物足りないし溜まる。

せめて受け取ってほしい、

彼が気持ちに答えられないなら、そう言って欲しい、いや、違う、言われたくない、言われてしまったら、2人の時間が終わってしまうし、何もあげられなくなる。
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