央弥は香澄のタオルしか受け取らない
《央弥が誰かにお弁当を作ってもらってる。カノジョがいるらしい》
と誰かが言い出した。
もちろん、香澄の事だ。
香澄自身も分かっている、自分が噂知れているわけだ。
でも噂と違うのはカノジョじゃないし、タオルは毎日返されているってことか。

央弥がお弁当を受け取るらしいという話はすぐ女子の間でひろまり、数人がお昼を持って央弥を訪ねてきた。

「誰からもらってるんですか?
教えてくれてもいいじゃないですか?」

と詰め寄られる。央弥はただ、

「弁当はもうあるし、これ以上はいらない」

ときっぱり断り、後は何も言わなかった。

(言えばいいのに)
央弥の態度を噂で聞いて、香澄は思った。
香澄からもらってるって言っていいのに。
隠したいのかもって思ってしまう。
央弥に秘密にされて、さらに全くのゼロの関係みたいだ。

そんな何とも言えないモヤモヤした気持ちを持ってしまっているのに、会えば、央弥は何の陰りもない。
ちゃんと香澄をまっすぐ見て、優しく話す。

「今日も本当にありがとう」

とお弁当を食べ、丁寧にタオルを返してくる。

✳︎

38度。
夏風邪は気持ち悪い。
暑いのに寒気。

香澄は熱が出て、親に学校に欠席の連絡してもらった。
お昼ごろ起きてまだ熱があったがシャワーをあびた。
スッキリはしたが、まだ、フラフラする。

央弥に渡すタオルは自分で用意した。香澄の机の上に綺麗にたたんで置いてある、ぼんやり、ベットで寝ながら、それが目に入った。

何回渡しても。

受け取ってもらえないタオル。
香澄の気持ち。

でも、央弥は変な態度ではない。
全然かわらない。

ちょっと泣きそうになりながら、香澄は目を閉じた。
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