央弥は香澄のタオルしか受け取らない
✳︎

〈やったー!私、央弥くんに、タオル受け取ってもらえた!〉

央弥のクラスメイトの女子。
かがんで靴紐を結んでいた彼に差し出されたタオル。

〈ああ、ありがとう、これはもらっておく 〉

と央弥が受け取った。
汗がグラウンドに落ちる。

香澄は目の前が真っ暗になったように感じた。
言葉も出なかった。


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ちょうど、香澄はその現場を見ていたのだった。
剣道部の練習メニュー表を央弥に届けようと、小走りで走っていた、
その時、

目に飛び込んできた光景だった。

炎天下、央弥のクラスは体育だったらしく、体操服のまま、何やら、怪我をした生徒もいたのだろうか、ごたついているようだった。

(あ、央弥先輩がいる、)

と思い駆け寄ろうとした時、央弥のクラスの女子が、タオルを差し出している、

央弥が、ありがとうって、受け取った彼女のタオル、

一瞬、央弥の鋭い目と合ったようにも思ったが、香澄はその場を全力で逃げ出した、

さっき、昼に律儀に返された香澄のタオル⋯⋯

わざわざ部屋にまで届けに来てまで返してくれたタオル⋯⋯

返さなくていいのにって部屋で言った、彼の笑顔が消えた、それでもまた今日も返してきたタオル⋯⋯

そう言う事だったんだ、と。
これが央弥の気持ちなんだと。
香澄からはもらわない。
返す。
刃物で切りつけられたように、その光景は心を抉った。

ショックで真っ暗な気持ちだった。
どうやって帰ったのか。
胸が痛くて辛くて暗闇に閉じ込められたみたいだった。
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