央弥は香澄のタオルしか受け取らない
香澄は高校に入学する4月に、家族で遠方から引越してきた。
高校受験は1人、日帰りで受けに来ていたのだが⋯⋯ 。
受験当日。
香澄は駅から受験会場の道を迷い焦ってうろうろしていた。
焦れば焦るほど方向が分からなくなる、時間が迫る、心細くて泣きたくなっていた。
ちゃんと調べて準備したつもりだったのに、こんな事になっている不甲斐ない自分も嫌だった。
もう一度方向を確かめようとした時、
「道に迷っているのか?」
と落ち着いた声がした。
背の高い、真っ直ぐに立つ男子。
陽の光がちょうど彼の後ろから顔に影を作っている。
見上げて、その後ろの陽が眩しかった。
見た事もないぐらい整った顔の、精悍な男子。
香澄が受験しに来た高校の制服をキチンと清潔に纏い、凛とした、まっすぐ香澄の目を見て、はっきり話す男子だった。
「えっと、私、受験生なんです」
「うん、そうだろうと思った。大丈夫、学校は近いから」
それが東堂央弥だった。
彼は落ち着いて道を案内し、校門に立つ教師に香澄を引き渡し、
「どんな場面でも、焦らず頑張れ」
と、去り際に言った。
彼は香澄の失敗を今更注意するでもなく、大袈裟に恩を売るでもなく、自然に1番必要な事をやってくれた。
窮地で央弥に助けられ、受験にも合格。
彼が通うこの高校に、香澄は入学した。