離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 男の腕の中で狼狽(ろうばい)していると、ふいに身体が離れ、高城の手が私の顎を持ち上げた。

 視線が絡み合う前に、キスが降ってくる。

 凍っていた心がじゅわりと溶けるように全身に熱が広がっていく。自分のものでなはい感情が育っていく感覚があった。

 この感情はなに?

 しばらくして唇が離れ、高城の顔が視界に映る。熱っぽく揺れる目をわずかに細めた男はぞくっとするほど色気を放っていた。

「まつり。君が好きで堪らない」

 高城が、悲しげに顔をゆがめる。

 この男は、ずっとこんな顔だったかな。なぜか急にそんなふうに思い、私はひきつけられたように目の前の高城から目が離せなくなった。

 しっかりしろ。この男が父になにをしたか忘れたわけじゃないでしょ。情なんて移るはずない。この男は父の仇、誰よりも憎い相手なんだから。

 そう自分に言い聞かせながら、私はうるさい心臓を握りしめるように自分の胸もとを服の上から掴んだ。
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