離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「お前は幸せになれるのか?」

 そう問われ、私は「なるよ。必ず」と答える。「じゃあいい」と告げた郁実は、目を瞑って力なく微笑した。

「今までありがとう。小さい頃から郁実がいたから、お父さんが仕事の間も寂しくなかった。お父さんが亡くなってからもたくさん話を聞いてくれてありがとう。郁実がいてくれたおかげで、私はいつもひとりじゃなかったよ」

 郁実には感謝してもしきれない。彼が常に私の味方でいてくれたから、私は最悪の決断をしなくて済んだのだ。

 できるなら傷つけたくない。でも、悠人さんと生きていくと決めた以上、その思いは叶わなかった。

「じゃあ、元気でね」

 心がまえはしてきたつもりでも、もう二度と会えないのかもしれないと思うと、声が頼りなく震える。

 郁実は私にとって家族のような存在だった。

 すると、郁実が大きくため息をついた。
< 175 / 204 >

この作品をシェア

pagetop