離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「今生の別れかよ。いつか旦那も紹介しろよ。幼なじみとして。うちの親だってお前が結婚したって知ったら旦那に会わせろって騒ぐぞ」

 郁実は、呆れたように笑いながら言う。

「だから、またな」

 いつものように告げる彼に、私は込み上げそうになる涙を呑み込みながら何度も首を思い切り縦に振ってうなずいた。

 本当に会える日が訪れるのかはわからない。

 二度もつらい別れを経験した私を思いやっての返答かもしれなかった。しかし、郁実に嘘をつかれた経験は今までに一度もない。

 いつかまた、昔のように会えたらいいな。郁実には幸せになってほしい。心からそう思っていた。
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