離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる

　男の背中に手を回し、その胸もとに顔を埋めた。一瞬驚いたように動きを止めた男が、私を抱きしめてささやく。

「まつり。必ず君を幸せにするから」

　その言葉に、私は男の背中に爪を立てそうになるのを必死に堪えて唇を結んだ。

　幸せになんてなれるわけない。私が結婚したこの男は、私が世界で一番憎い男なのだから。

「……嬉しいです」

　私は心を殺し、偽りの言葉を吐き出した。

　目的を果たすためならどんな嘘でもつく。この男を私に夢中にさせて、男の中で私の存在がなくてはならないようになってからでないと意味がない。

　あのときの父の、信頼を裏切られる気持ちをこの男にわからせるにはそうするしかなかった。

　私は無念の思いで亡くなった父の復讐を誓い、この男と結婚した。

　この男が私を愛したら、離婚を申し出てこの男を捨てる。この男が、かつて簡単に父を切り捨てたように。

　私は最初から離婚するためにこの男と結婚したのだ。この八年間、復讐だけを糧に生きてきた。目的を果たすには、なんとしてでもこの男の気持ちを動かさなければいけない。

　憎い男の腕の中で決意を新たにした私は、その固く引きしまった胸もとにすがりついた。