離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる

　ゆっくりと深呼吸をした私は、トイレから出てホテル内にある宴会場へ向かう。大きな両開きの扉の前に立つホテリエが、扉を開けてくれて中へ入った。

　千人ほどなら問題なく収容できそうな広々とした会場の中は、すでに多くの人であふれていた。

　高い天井からはいくつもシャンデリアがぶらさがっていて、清潔感のあるクロスがかけられた細長いテーブルには、立食ビュッフェの華やかな料理やデザートが並べられている。

　私は係の人から渡されたウェルカムドリンクを受け取り、さりげなく辺りを見渡す。会場内に数え切れないくらいいるスーツ姿の男性たちを目で追い、ひとりの男を捜した。

　このパーティーは、清涼飲料水メーカー『株式会社ふくらく』が開催した懇親会だ。

　交流を目的に様々な企業の人が招待されており、その目的通り会場内のいたるところで名刺交換など企業間のやり取りが行われている。

　私の仕事は、食品会社『サングループホールディングス』本社ビルの一階にあるカフェの店員だ。