離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
 憔悴し、家にこもって学校にも行けなくなった私を心配して、同じ高校に進学していた郁実はよく学校帰りに電車に乗って叔母の家まで来てくれていた。

 学校での出来事を話してくれたり、ノートのコピーも届けてくれたりして。

 その頃の懐かしい記憶が、私の頭の中に蘇る。

 あのときの私は、郁実にだけは本当の胸のうちを話していた。高城が父を死に追い込んだということも、復讐したいくらいに高城が憎いと思っている気持ちも。

 叔母たちには言えなかった悲しい事実も、郁実には話せた。

 だからこそ結婚なんて話せば心配をかけるのはわかっていたけれど、今までずっと話を聞いてくれた郁実にだけは真実を伝えておきたかった。

 口をつけず烏龍茶のグラスを手にしていた私の指に、水滴が流れ落ちてくる。

 郁実が、首のうしろに手をあてながら口を開いた。
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