離婚するはずだったのに、ホテル王は剥き出しの愛妻欲で攻めたてる
「すみません。恥ずかしくて、つい。大丈夫なので続けてください」

 ここで中断されて気まずくなるわけにはいかない。経験があるふりをしないと。覚悟なら十分してきたはずだったのに。

「もしかして、初めてだったのか?」

 発せられた言葉に、私はドキッとする。

 やっぱりわかるのかな。なんと言うべきだろう。『そんなわけない。少し緊張しただけです』と言えばごまかせる?

 急いで考えを巡らせていると、私は頭を温かく力強いなにかに包まれる。

「気づかなくてごめん。怖い思いをさせた」

 高城が、私の後頭部を撫でていた。一瞬その温かさに身を任せそうになった私は、両手で高城の身体を押し返す。

「……お願いします。止めないで。私もあなたと夫婦になりたいんです」

 腹を据え直し、男に言った。

 私は早く愛されないといけない。こんなところで躓いている場合ではないのだ。
< 66 / 204 >

この作品をシェア

pagetop