クズ男の独占欲に溺れて。
「……な、なに」
「この後も同じこと言えるかなあ。俺が言えないようにしてあげる」


不気味な笑みに耐えられず、後ずさりしようとしたけれど、私は所詮女だった。

男のこいつには敵わないし、離れられない。



どうすることもできず、目の前の開けられたシャツを見ていると、伸びてきた綺麗な指先が私の顎を掴んで、グイッと上げる。

25センチ以上も上にある顔を見上げる形になって、急いで目を逸らそうとしたとき、視界に何も映らなくなった。


──それは一瞬の出来事だった。

私の顎に手を添えたまま、その綺麗な顔面が近づいてきて、唇が一瞬温かくなった。

彼の薄い唇と自分の唇が重なったこと、そしてキスされたことに気づいたタイミングと私の驚いた声が洩れたタイミングはほぼ同じだろう。



何人もの人と重ねてきた唇が私の唇と重なって、私は大切なファーストキスを奪われた。
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