クズ男の独占欲に溺れて。
こいつな何者なのだろうか、いやそれ以上におかしいのは、おかしくなってしまったのは私なのだろうか、きっと後者だと思う。

逃げられるのに、離れられるのに、私は動けなかったというか、動かなかった。


横に振りたかった首が動かさなかった。




「知らない」
「ふっ」

やっぱり、俺に話しかけられて堕ちない人なんていないよな、と怪しくわらったこいつに怒りをぶつける権利は、もう私にはなかった。

うん、とは言いたくなかったけれど、そうとしか思えなかった。




こいつの熱い唇と吐息と、掴む手と、全部に、彼の全部に一瞬で侵された。

いままでこんな気持ちになったことはない。





「意外と可愛いところあるじゃん」

むかつくのに、殴りたいほど苛立つ顔をしているのに、私はこいつから離れられなくて、何かに縛られているように動かなくて、こいつの言葉を聞いた途端、鼓動が速くなった。
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