無気力系幼なじみと甘くて危険な恋愛実験




バスに乗って大型ショッピングモールに到着するなり、


「ほしいもんないの」「ない」


の短い会話で目的が失われてしまったから、壱が致し方なしって感じでため息をこぼして「じゃーピアスでも買う」と呟いた。



(くだん)のベロアっぽい生地感の赤色の小さい箱のことがあるから、誕生日プレゼントというワードが使えなくて、壱にピアスくらいプレゼントしてあげたくてもそう言えなくて、悶々…。


恨めしげな目つきで棚の影から万引きジーメンさながらに壱を眺めていると、フリーな壱が周囲の女という女からの視線を一斉に受けていることがよく分かる。


壱の細長い指がメンズ物の小さなピアスに触れるたび、きゃ、と短い声もあがったりして、見ているこっちがもう恥ずかしい。



壱が女の子にちやほやされるのは人生で見慣れた光景なのに、こうして高校生の壱(しかも私服でショッピングモールでアクセサリーショップ)をまじまじと遠くから見るのは、はじめてな気がして。


控えめにいっても怯む。


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