無気力系幼なじみと甘くて危険な恋愛実験
バスに乗って家まで帰る道すがら、空は壱が鶏のシロップ煮を食べた日の夕方みたいな橙色で、私は無口になりがちだった。
身体中に、朝からの壱のすべてが充満していて、心の行き場がない。
デートは、疲れた。
壱にきゅっと繋がれた手は、なにかを慮るように幼い頃と同じかたちで、あんなにこそばかった恋人繋ぎってやつは、幻だったんじゃないかとさえ思う。
「デート楽しかった?」
「ピアス真面目に選んでくんないから嫌だった」
「それは仁乃に頼んだ」
「そーでしたっけ」
「別にいいけど」
「いいんかい」
「また選んで」
嫌だよ。
答えるかわりに。
「天津飯、ありがとう」
これが今の、精一杯。
実験だろうがなんだろうが、幼なじみとデートなんてするもんじゃないってことだけは、確かだ。