無気力系幼なじみと甘くて危険な恋愛実験
結局いつもより30分早く部屋から出て、妙にクリアな思考でシャカシャカ歯磨きをしながら思い出すのは、あの日のデートのことだ。
夢に見なくたって分かってる。
ご丁寧に解説するみたいな夢だ。
あの日中華料理屋で、私の膝にカーディガンを掛けて壱は、
『寒いし掛けとけば』
そう言った。
そしてじっとカウンターのほうを睨んだ壱の左目の下はひく、と動いていて、私はそれに気づいていた。
一瞬だけ見たカウンター席、若い男が私の足元からぱっと目を逸らしたことにも。
壱が見逃さなかったのは、私の肩の震えだけじゃない。
それに、気づいていた。
いつだって私は、壱に守られている。
今だって、こうして。
大きくなった壱は、馬乗りになって誰かを殴ったりしなくても私を守れることを知っている。
そういう壱を、私は知っている。