無気力系幼なじみと甘くて危険な恋愛実験
「幼なじみだからって、釣り合わない自分がこれから先も俺のそばにいていいわけない」
「だからいつか、俺から離れて俺の知らない男をつくる」
「そしたら俺もいつか、仁乃から離れて仁乃の知らない女をつくる」
そう、そのとおり、壱は本当になんでもお見通しだ。
だってそれが、私の持てる、唯一の。
「健気な考えだ。仁乃らしい、健全な考えだ」
そう、健気と、健全。
壱は一言一言、高いところから水面に向かって落とすように言い、伏せた瞳を持ち上げて私をまっすぐ見た。
壱の背後の窓から差しこむ夕暮れのセピア色が、壱をむしばんでいくように見える。
どんどんどんどん、むしばんでいくように。
「…思い知ったらいいのに」
壱の大きくて細くて綺麗な手がゆっくり私のほうへと伸びて、私のどこに触れようかきっと迷って止まった。
わずかに震えている指先。
その手をとらなくちゃ。
今壱に触れなくちゃ。
あのセピア色が、壱を飲みこむ前に。