無気力系幼なじみと甘くて危険な恋愛実験
手を引いてもらえなくていい。
追いかけて転んで痛くて痛くて痛くてそれでも守ってもらえなくていい。
壱の、幼なじみじゃ、なくていい。
泣かないなんて無理だから、泣きながらでも、壱の隣に。
行きたいから。
立ち上がって、一歩踏みだす。
失って、最初の一歩を。
そしたら、そしたらなぜか、とん、と、すぐに壱の胸にぶつかった。
カッターシャツの感触と、壱のにおい。
「な、んで…」
呆然として見上げたら、壱がほんの少し訝って言った。
「なんでってなにが」
「帰った…んじゃなかったの」
「なんで俺が仁乃置いて帰んの」
だって、私、壱の手をとれなかったから。
掴みそこなったから。
今度こそ置いていかれるとーーー。
両目から、堰を切ったように涙が出た。
壱はそれをぬぐわず、ただ黙って見ている。
たぶん今、私は壱にすごく近い場所にいる。