笑わない私と狼少年
プロローグ
季節は夏の終わり。昼間は冷房がないところだと次第に汗が流れ気持ちが悪くいてもたってもいられない。夜になると風が心地よく感じる。そして夏の風物詩とも言えよう蝉たちが大きな声で鬱陶しくずっと鳴いている、そんな時期だ。
辺りは陽が落ち始めていてうっすら暗くなっている。そんな中を私古川菜月は幼馴染の藤原大和と家路についていた。歩いていると、制服のワイシャツが肌に張り付きそうなほどじわりじわりと汗が滲み出てきて、下着が透けて見えないか心配になる。時折ハンカチで汗を拭いながらゆっくりと歩いていく。
「いやー楽しかったなー!」
満面の笑顔を浮かべながらそう言葉にした。
「ほんとだね!歩き回って疲れたけどね」
「菜月のクラスのたこ焼きめっちゃ美味かったよ」
「本当に?私今日自分のクラス行けなかったから明日絶対行こっと」
今日と明日は学校の文化祭。夏休みが終わった頃から文化祭の準備が始まっていて、総合の授業の時間に話し合いで出し物を決めた。その話し合いの時には色んな案が出た。お化け屋敷、タピオカ屋、射的とか。その結果、クラスの男子が提案したたこ焼き屋さんに決まったのだ。
みんなで教室内を段ボールや画用紙、折り紙で
飾り付けて、お祭り感のある仕上がりになった。
赤と白を基調に、まるで盆踊りの会場かのような感じだ。教室に入ると本当にお祭りをやっているかのような感覚に陥り、なんだかわくわくしてくる。私の教室の前を通るだけでもたこ焼きを焼いている香りとソースの香ばしい香りが漂っていて思わずみんな立ち入ってくる。そのお陰か私のクラスのたこ焼き屋さんは始まってすぐに行列ができて、その時間の担当の店番の子達だけではすぐに人手が足りなくなった。担任の先生や他の時間の店番の子も手伝いに来てくれてようやく上手く行く、それぐらいの繁盛だった。
「大和のクラスはどうだったの?」
「うーん、なんか暇過ぎず忙しすぎずって感じだったなあ、でも部活の先輩が何人か来てくれたよ」
「そうだったんだ、良かったね」
大和はバスケ部に入っていて、1年生ながらもスタメンの座を獲得するほど大和はバスケが上手い。大和は小学生になってすぐにバスケをならい始めて、中学時代もバスケ部だった。テレビでNBAというアメリカのバスケのリーグの試合中継をたまたま見てバスケをやりたくなったそうだ。豪快なダンクを決めたりスリーポイントシュートを軽々と決めたりと、そんな選手たちを見てバスケに一目惚れしたんだとか。昔に大和に聞いたことがある。考えてみたら小学生になってすぐにバスケを初めてから今までずっとバスケを続けて来たと思うと、10年もバスケをずっとやっている。大人でもないのに1つの事を長い間やり続けていると思うと、大したもんだなあと感心する。
そんな大和のクラスはドーナツ屋。といってもその場で作るのではなく、事前にチェーン店からある程度仕入れて、頼まれたものを可愛くデコレーションされた紙袋に入れてあげて渡してあげる、そんな様な流れらしい。それなら作ったりする労力もいらないし、店番の子も少人数で済む。賢いやり方だと思った。
「けどある程度仕入れて来たのにさ、予想より売れなくて途中からまとめ売りにしたんだよ。そしたらそこそこ売れて、今日の分はなんとか売りきったよ」
「そっかあ、売れ残っちゃったら次の日とかに回せないもんね」
集団食中毒や衛生的な面を懸念して、その日に売れ残った食べ物飲み物はその日に処分する、それが学校のルールだった。
「じゃあ明日の分のドーナツはどうするの?」
「多分今頃女子たちがドーナツ屋に行ってまた買い足してるんじゃねーかな」
今日の売れ行きを鑑みて明日の分を大和のクラスの女子たちがドーナツ屋に取りに行っている。そうやって数を考えて無駄なく仕入れる、食べ物屋さんの難しい所。文化祭とは年に1回の楽しい行事かも知れないが、その分学べる事があったり、クラスの絆がより深まったりする良いイベントだと私は思う。
高校生になって初めての文化祭の楽しかった話を2人でしながら歩いていると、あっという間に私たちがいつもバイバイするT字路に着いた。
「よし、じゃあまた明日な」
「うん、またね」
私はT字路を真っ直ぐに進み、大和は右に曲がるから私は振り返って大和にばいばいと手を振り
またなー、と大和も手を振り返す。他愛のないこんな挨拶を毎日私たちはする。
1人になった私はカバンの外側に付いている小さな収納部分からおもむろにイヤホンを取り出し、スマホに差し込みイヤホンを耳に入れた。
このイヤホンは大和が去年の私の誕生日に買ってくれた薄いピンクの色が可愛いイヤホン。私の誕生日は12月28日で、毎年学校は冬休みに入っているから、私の誕生日を知ってくれている友達はみんなチャットアプリで『お誕生日おめでとう』と連絡をくれる。直接会ってどこか出かけたりプレゼントをくれたりする友達は大和だけ。あとは親。まあ私の誕生日は年末だから何かとバタバタする時期だしみんな忙しいのだろう。
そんな中でも大和だけは毎年プレゼントをわざわざ家まで届けに来てくれる。私の彼氏でもないのに。だから私も大和の誕生日の時だけは毎年なにかプレゼントを用意してる。大和の彼女でもないのに。
そしてスマホの電源ボタンを押して画面をつけて、音楽アプリを起動し、私の好きな歌手の曲をイヤホンで流して聴きながら帰る。これが私の毎日している帰り道のルーティーン。大和とバイバイしてから私の家までは15分程歩けば着くけど私は基本外を1人で歩く時はイヤホンで音楽を聴くタイプ。
すると目の前から大きなトラックがまあまあなスピードでこちらに向かってくる。道はそんなに狭い訳じゃないけど、車がすれ違うにはどちらかが止まって相手に譲ってあげてからじゃないと通るには難しいであろう狭さではある。
その大きなトラックがそんなに広くもない道をまあまあなスピードでこちらに来るものだから、私はトラックとぶつかるのが怖くなって、途端に体を壁に寄せて立ち止まった。壁に触れた方が少しひんやり感じる。
そのトラックが私と完全にすれ違ったのを確認して、再び歩き出した。あのトラック危ないでしょ…と感じ首だけ後ろに回してもう一度トラックを見てみると、ウインカーも出さずスピードも大して落とさずに、さっき私が大和と別れた道を、大和が進んで行った方へと左に曲がって行った。
トラックが見えなくなって私は顔を前へと戻した。
ーーーその瞬間だった。何かが壁にぶつかるような、何かが激しく壊れるような、それはそれは大きな音が、ガシャガシャン!!とイヤホンで耳を塞いでいても聞こえてきた。
「え?」と思わず口にして振り返った。私はすぐに思った、さっきのトラックが壁にでも突っ込んだのだろうと。嫌な予感がしたのと、その様子が気になり私は小走りで大和と別れたT字路までど戻る。
すると、私の予想通りトラックが道の左側の壁もろとも突っ込んで止まっていた。標識を支える鉄柱もそのトラックのフロントの輪郭をなぞるように一緒に曲がっているのが見えた。
運転手の様子が気になり、止まっているトラックに走って近づく。すると、道の反対側で倒れている人を見つけた。
「えっ!だっ、だいじょ…」
大丈夫ですか、と私は口にしたかった。けど倒れている姿を見て、それが誰かを私はすぐに理解した。大和だった。両腕を上にあげて万歳をしたような形で、リュックを背負ったままうつ伏せに倒れていた。
それに加えて私は今までの人生で1番ショッキングな光景を目にした。頭を強く地面に叩きつけられたのか、頭の左側から激しく出血している。
「えっ…えっ…や、やまと!大和っ!!しっかりして大和!!大丈夫!!!??」
私はそう大声で叫びながら大和の体を揺すった。
「やまと!!大和っ!!ねえ大和っ!!!!!」
辺りは陽が落ち始めていてうっすら暗くなっている。そんな中を私古川菜月は幼馴染の藤原大和と家路についていた。歩いていると、制服のワイシャツが肌に張り付きそうなほどじわりじわりと汗が滲み出てきて、下着が透けて見えないか心配になる。時折ハンカチで汗を拭いながらゆっくりと歩いていく。
「いやー楽しかったなー!」
満面の笑顔を浮かべながらそう言葉にした。
「ほんとだね!歩き回って疲れたけどね」
「菜月のクラスのたこ焼きめっちゃ美味かったよ」
「本当に?私今日自分のクラス行けなかったから明日絶対行こっと」
今日と明日は学校の文化祭。夏休みが終わった頃から文化祭の準備が始まっていて、総合の授業の時間に話し合いで出し物を決めた。その話し合いの時には色んな案が出た。お化け屋敷、タピオカ屋、射的とか。その結果、クラスの男子が提案したたこ焼き屋さんに決まったのだ。
みんなで教室内を段ボールや画用紙、折り紙で
飾り付けて、お祭り感のある仕上がりになった。
赤と白を基調に、まるで盆踊りの会場かのような感じだ。教室に入ると本当にお祭りをやっているかのような感覚に陥り、なんだかわくわくしてくる。私の教室の前を通るだけでもたこ焼きを焼いている香りとソースの香ばしい香りが漂っていて思わずみんな立ち入ってくる。そのお陰か私のクラスのたこ焼き屋さんは始まってすぐに行列ができて、その時間の担当の店番の子達だけではすぐに人手が足りなくなった。担任の先生や他の時間の店番の子も手伝いに来てくれてようやく上手く行く、それぐらいの繁盛だった。
「大和のクラスはどうだったの?」
「うーん、なんか暇過ぎず忙しすぎずって感じだったなあ、でも部活の先輩が何人か来てくれたよ」
「そうだったんだ、良かったね」
大和はバスケ部に入っていて、1年生ながらもスタメンの座を獲得するほど大和はバスケが上手い。大和は小学生になってすぐにバスケをならい始めて、中学時代もバスケ部だった。テレビでNBAというアメリカのバスケのリーグの試合中継をたまたま見てバスケをやりたくなったそうだ。豪快なダンクを決めたりスリーポイントシュートを軽々と決めたりと、そんな選手たちを見てバスケに一目惚れしたんだとか。昔に大和に聞いたことがある。考えてみたら小学生になってすぐにバスケを初めてから今までずっとバスケを続けて来たと思うと、10年もバスケをずっとやっている。大人でもないのに1つの事を長い間やり続けていると思うと、大したもんだなあと感心する。
そんな大和のクラスはドーナツ屋。といってもその場で作るのではなく、事前にチェーン店からある程度仕入れて、頼まれたものを可愛くデコレーションされた紙袋に入れてあげて渡してあげる、そんな様な流れらしい。それなら作ったりする労力もいらないし、店番の子も少人数で済む。賢いやり方だと思った。
「けどある程度仕入れて来たのにさ、予想より売れなくて途中からまとめ売りにしたんだよ。そしたらそこそこ売れて、今日の分はなんとか売りきったよ」
「そっかあ、売れ残っちゃったら次の日とかに回せないもんね」
集団食中毒や衛生的な面を懸念して、その日に売れ残った食べ物飲み物はその日に処分する、それが学校のルールだった。
「じゃあ明日の分のドーナツはどうするの?」
「多分今頃女子たちがドーナツ屋に行ってまた買い足してるんじゃねーかな」
今日の売れ行きを鑑みて明日の分を大和のクラスの女子たちがドーナツ屋に取りに行っている。そうやって数を考えて無駄なく仕入れる、食べ物屋さんの難しい所。文化祭とは年に1回の楽しい行事かも知れないが、その分学べる事があったり、クラスの絆がより深まったりする良いイベントだと私は思う。
高校生になって初めての文化祭の楽しかった話を2人でしながら歩いていると、あっという間に私たちがいつもバイバイするT字路に着いた。
「よし、じゃあまた明日な」
「うん、またね」
私はT字路を真っ直ぐに進み、大和は右に曲がるから私は振り返って大和にばいばいと手を振り
またなー、と大和も手を振り返す。他愛のないこんな挨拶を毎日私たちはする。
1人になった私はカバンの外側に付いている小さな収納部分からおもむろにイヤホンを取り出し、スマホに差し込みイヤホンを耳に入れた。
このイヤホンは大和が去年の私の誕生日に買ってくれた薄いピンクの色が可愛いイヤホン。私の誕生日は12月28日で、毎年学校は冬休みに入っているから、私の誕生日を知ってくれている友達はみんなチャットアプリで『お誕生日おめでとう』と連絡をくれる。直接会ってどこか出かけたりプレゼントをくれたりする友達は大和だけ。あとは親。まあ私の誕生日は年末だから何かとバタバタする時期だしみんな忙しいのだろう。
そんな中でも大和だけは毎年プレゼントをわざわざ家まで届けに来てくれる。私の彼氏でもないのに。だから私も大和の誕生日の時だけは毎年なにかプレゼントを用意してる。大和の彼女でもないのに。
そしてスマホの電源ボタンを押して画面をつけて、音楽アプリを起動し、私の好きな歌手の曲をイヤホンで流して聴きながら帰る。これが私の毎日している帰り道のルーティーン。大和とバイバイしてから私の家までは15分程歩けば着くけど私は基本外を1人で歩く時はイヤホンで音楽を聴くタイプ。
すると目の前から大きなトラックがまあまあなスピードでこちらに向かってくる。道はそんなに狭い訳じゃないけど、車がすれ違うにはどちらかが止まって相手に譲ってあげてからじゃないと通るには難しいであろう狭さではある。
その大きなトラックがそんなに広くもない道をまあまあなスピードでこちらに来るものだから、私はトラックとぶつかるのが怖くなって、途端に体を壁に寄せて立ち止まった。壁に触れた方が少しひんやり感じる。
そのトラックが私と完全にすれ違ったのを確認して、再び歩き出した。あのトラック危ないでしょ…と感じ首だけ後ろに回してもう一度トラックを見てみると、ウインカーも出さずスピードも大して落とさずに、さっき私が大和と別れた道を、大和が進んで行った方へと左に曲がって行った。
トラックが見えなくなって私は顔を前へと戻した。
ーーーその瞬間だった。何かが壁にぶつかるような、何かが激しく壊れるような、それはそれは大きな音が、ガシャガシャン!!とイヤホンで耳を塞いでいても聞こえてきた。
「え?」と思わず口にして振り返った。私はすぐに思った、さっきのトラックが壁にでも突っ込んだのだろうと。嫌な予感がしたのと、その様子が気になり私は小走りで大和と別れたT字路までど戻る。
すると、私の予想通りトラックが道の左側の壁もろとも突っ込んで止まっていた。標識を支える鉄柱もそのトラックのフロントの輪郭をなぞるように一緒に曲がっているのが見えた。
運転手の様子が気になり、止まっているトラックに走って近づく。すると、道の反対側で倒れている人を見つけた。
「えっ!だっ、だいじょ…」
大丈夫ですか、と私は口にしたかった。けど倒れている姿を見て、それが誰かを私はすぐに理解した。大和だった。両腕を上にあげて万歳をしたような形で、リュックを背負ったままうつ伏せに倒れていた。
それに加えて私は今までの人生で1番ショッキングな光景を目にした。頭を強く地面に叩きつけられたのか、頭の左側から激しく出血している。
「えっ…えっ…や、やまと!大和っ!!しっかりして大和!!大丈夫!!!??」
私はそう大声で叫びながら大和の体を揺すった。
「やまと!!大和っ!!ねえ大和っ!!!!!」