これを愛というのなら
私、結城 早織は。

15年前、蓮くんの気持ちに負けて恋に落ちた。


旦那とは、その頃からすでに結婚生活崩れていたのもあって。

蓮くんを本気で好きになるのに、時間はかからなかった。

優しい蓮くんは、私が教えた女性の扱い方やエスコートの仕方を、すぐに覚えて。

いつも、優しく愛でてくれた。


関係が1年程、続いたある日。

旦那と出掛けた先で、蓮くんに遭遇して。

結婚している事を知られて。

旦那のことだ、蓮くんを追い詰めて。

将来すら奪われる。

だから、私は蓮くんとの別れを決意した。

別れたくないと言う、蓮くんと本当なら別れたくなかった。

この時、旦那との離婚を決意して。

離婚したら、蓮くんとまた付き合いたい。

そう思っていたのに、やっと離婚できた時、蓮くんは日本にいなかった。

もっと早く別れていれば、と何度も後悔した。

いつ帰って来るのか、帰って来たことすらわからないまま、月日は流れて。

蓮くんが、人気の結婚式場=リュミエール。

しかも友人が副社長をしている、そこで料理長として働いている事を知った。

それが1年前。

行く理由もない、待ち伏せなんて出来ない。

考えて、考えて迷って1年が過ぎた頃。

副社長の友人から、蓮くんの働く式場が運営する案内所で、

料理教室の講師をしてほしい、と連絡があって。

すぐにOKの返事をした。


この時に初めて、式場のホームページを開くと。

ものすごく可愛い、私とは正反対な容姿の女の子と映っている蓮くんがそこにいた。


穏やかで、優しい瞳で、女の子を見ている。

女の子を抱き上げて、楽しそうに笑っている。

私をこんなに……穏やかな優しい瞳で見てくれたことなんてない。

こんなに、楽しそうな笑顔の蓮くんを知らない。

悔しくて、苦しくなって。

この女の子から、蓮くんを取り戻したい。

もう一度、蓮くんの腕に抱かれたい。

形のいい、柔らかい唇にキスしたい。

私と過ごしていた時より長くて、焦げ茶色の、サラサラの髪を撫でたい。

大きくて、男なのに細くて長い指の手を握りたい。


私の中の悪魔が囁いた。
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