これを愛というのなら
料理長!?


車に背中を預けて待って居ると、南が駆け寄って来て。


「その立ち方、ときめきたくなくても…ときめくから止めて?」


助手席に乗り込むなり、言われて。

鈴木にも言われた、と答えると。


「だろうね。料理長は、自分で自覚してないと思うけど…完璧すぎるくらい、いい男なんだから、大半の女の子は普通に立っていても、ときめくんだよ」


何だよ?それ。

なら、どんな立ち方すりゃいいんだよ!

前髪を掻き上げれば。


「もう!それも、ときめく!」


いちいち、仕草のひとつひとつに言われたら……


「なんにも、出来ねぇのかよ?楽な態勢で立たせてくれよ?前髪くらい掻きあげさせてくれよ?」


笑いながら、カッコいいって自覚持ってよ、と。


どこが?


「全部よ。背も高いし、スタイルもいい。顔も綺麗って完璧じゃない!」


「陽介もだろ?」


「陽介さんもだけどね。背は料理長の方が高いでしょ?何センチ?」


「今年の健康診断では、178だったかな」


「ほらっ、陽介さんより3センチも高いじゃない!とにかく、自覚を持ちなさいよ。前の女に、口説かれるわよ?」


「口説かれねぇだろ?結婚してんだぞ?」


「瑠美さんの前例があるじゃない!」


そうだったな。

けど、あれは付き合ってた期間が違う。


「期間ね……私は何か嫌な予感しかしない。梓を泣かせなきゃ、別にいいんだけどね」


「泣かせねぇから、安心しろ」


「信じてるわよ」



まさか、この南の嫌な予感が当たるとはな。


マリッジに着くと、従業員入り口の前に。

そわそわしながら立っていた鈴木は、俺と南を視界に捕らえると。


助けてください!


「何があったの?」


南が訊くと、早織さんが梓に俺の事を言ったとか何とか。


「鈴木の説明、わかりづらいんだよ。けど、ありがとな。遅くなって悪い。とりあえず止めてくる」


少し震えているようにも見える鈴木の頭を撫でて。

二人の所へ足を向けた。



泣き虫なくせに、梓が気が強いことは、わかっていたから。

こうなる事だけは避けたかった……

少し遅かったか……
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