これを愛というのなら
蓮…?

俺を見上げた梓は、いいの?、と。


「なにが?」


「あんな言い方して」


「いいんだよ。今は、時間ないだろ?俺に出来ることは手伝うから、仕事しろ」


俺が誕生日にプレゼントした腕時計を見て。


「わかった、ありがとう」



蓮は、結城さんの準備のサポートして。

それから、鈴木!
生徒さんのリストとレシピと、エプロンと三角巾の予備を受付に準備して。

利香は、私とお持ち帰り用のタッパーの準備を手伝って。





たまに、梓の仕事とプライベートを切り替えるスイッチは、どこにあるんだろうって思うよ。

大体は、俺と同じなんだろうけど。


さっきまで、泣いてたのが嘘みたいだな。

まだ、モヤモヤしてるくせに。



帰ったら、たくさん甘やかしてやる。

たくさん話を聞いてやる。




「なに?あの子、さっきまで蓮くんにしがみついて、泣いてとは思えない」


サポートをしている俺に、早織さんが梓を見ながら、 呟くように言った。


「あれが、梓なんだよ」


早織さんは、俺を見ると。

そう、と。


「悔しいくらい優しい瞳で、あの子を見るのね」


「そうかもな。この仕事に梓なりのプライドを持ってる。どんなに泣いても、すぐに切り替えて。悔しい事があっても、辛い事があっても、歯をくいしばって…今の関係になる前から、気が抜けた時に甘えてくる」


「だから、惹かれたってこと?」


「たぶんな。梓と出会って、直ぐに意気投合して。愛おしい、守りたいと初めて思った。この感情を自覚するまでに、時間はかかったけどな」


早織さんは、手を止めることなく話を聞いていて。

俺も手を止めずに話を続ける。



一緒な時間を共有すればする程、梓を好きになって。
正直、今でも好きになってる気がする。好きで好きで仕方ない。


そう。私の知ってる蓮くんは、そんな優しい瞳をしてなかった。
今にして思えば、 私が喜ぶから優しくしてくれてるような感じで、瞳は優しくなかった。
だからかな、寂しいと思った。


そうか。自分じゃわからない。
ただ、梓を好きなだけだ。
それと、今日だけと言わずに、講師を続けてくれないか?


なにそれ?あの子のため?


そうだよ。梓が頑張って作り上げた、ここを俺も一緒に守り立てたい。
だから、頼む。


考えておくわ。
それと、蓮くんの気持ちはわかったから。
最後にひとつだけ聞いてもいい?


いいよ。


私のこと、好きだった?


好きだったよ。
忘れられなかったって言っただろ?


そうね。
だったら、もう私があの子に何も言うことはない。
蓮くんにもね。


あぁ、ありがとう。と返事をすると。


完全に私の負けね。最初からわかっていたけれど。


早織さんの呟きが聴こえた。



きっと、早織さんをこんな風にしたのは俺だ。

だけど、梓への気持ちは変わることはないから。

俺が好きだった早織さんに戻ってほしいと願うだけ。


せめて、これだけは言わせてくれ。



早織さん、ありがとう。

そして、ごめんな。



早織さんは、

なにそれ……蓮くんらしいけど。

俺が好きだった、早織さんの笑顔で言ってくれた。
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