これを愛というのなら
「それで…早織さんに何を言われたんだ?」


別々の車で帰って来た帰り道、

お風呂で聴かなければ、梓は間違いなく寝る。

俺の判断で、湯槽に浸かりながら。

向き合う態勢で梓に訊ねると、


「結城さんに " 蓮くんに私が迫って私を選んだら、幸せを願うって言えるの?"って言われたから。私なら、幸せを願うって言ったからなんだけど……」


涙を浮かべながら、答えられなかった、と。


「蓮を信じてるんだけど、蓮が結城さんを選んだら……また愛する人が居なくなるって……二度と会えない……って考えちゃて……」


瞳に浮かべた涙は、すでに頬をつたっていて、

涙声で言ってくれた梓を抱き締める、バカ、と。


「俺は、居なくならない。これから、何があっても居なくならない」


腕に力を込めると、うん、と抱き締め返してくれて。


「ありがとう。結城さんのサポートお願いしたでしょ?」


あれね、ちゃんと話して欲しかったの。


そうだろうと思ったよ。


「俺がきつい言い方したからだろ?ちゃんと話したから」


「うん、わかってる。内容までは聴かない。聴くことじゃないって思うし。それと、結城さんに、続けてくれるように言ってくれたんでしょ?」


「梓の、そういう所には敵わない。早織さんにお願いしたのは、梓が頑張って作り上げたマリッジを一緒に守り立てたいって思ったからだ。気にしなくていい」


「ううん……嬉しい。ありがとう」


梓を抱き締めてた腕を緩めると、梓も腕を緩めて。

自然と絡まった瞳。

微笑み合って、どちらからともなく唇を重ねる。



「本当に、俺が早織さんと何を話したのか聴かなくていいのか?」


「うん、蓮が今もこうして、私と居てくれてる。それが答えでしょ?言葉にならないくらい嬉しいから」


そうか。

梓は、本当にいい女。


頭を撫でると、笑ってくれた梓は。

俺の首筋の紅い跡を指でなぞって、愛してる、と呟く。


本当に、堪らなく可愛い。


「……っ…首筋はあんまり触るなよ…」


「そんなこと言われると余計に、触りたくなる!」


「これ以上、触ったら…我慢出来なくなるぞ?いいのか?」


「…今日はたぶん途中で寝ちゃうよ…それでもいいなら」


「それは勘弁してくれ。我慢するよ、だから気が済むまで触っていいよ。ただし…上がってからな」




弱い部分だけじゃない。

梓に触れられるだけで、もっと触れられたい。

触れたいと思ってしまう。



梓には、俺がまだ知らない俺をたくさん教えられる。

早織さんに言われたように、喜ぶからではなく、勝手に身体が動いてる。

考える隙間なんてないくらい。

自分じゃわからない優しい瞳。

それも回りが言うんだから、そんな瞳なんだろう。



もっと暴いてくれ。

俺のまだ知らない俺を。

そして、そんな俺を包み込んで愛してくれ。


梓の強さも、弱さも。

切りながないくらいある梓の好きな所も。

極僅かな嫌いな所も。

俺も包み込んで愛しているから。

< 121 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop