これを愛というのなら
朝早くのけたたましい着信。

ん…?おふくろ?


「…どうした?」


『お父さんが…倒れて…』


「は?今、病院か?」


慌てて、ベッドから飛び降りて。

ベッド脇に脱ぎ捨ててあった下着に手を伸ばす。


『…そうよ…お父さんは今、手術中…」


涙声のおふくろに、病院名を聞いて。


「わかった。用意して行く!」


『…でも…あんた仕事は?』


「今はそんな心配いらねぇ。あとで、話す。とりあえず行くから」


電話を切って、梓の寝顔に手を伸ばして。


梓!起きろ!


優しく頭を撫でて、いつものように唇にキスをすると。


ゆっくり瞼を開ける。


「…ん…?今、何時?」


「6時半だ。それより、早く起きて用意しろ!親父が倒れた、病院行くぞ」


えっ?と慌てて飛び起きて、ベッド下の下着を身に付けて。

洗面所に駆け込んで行く梓の、後を追うように俺も洗面所に行く。




バタバタと用意をして、車に乗ると。

化粧をしながら。


「お父さんの容態は?」


「まだ、わからない。手術中ってことしか…」


「…そっか…大丈夫だよ、きっと」


そうだな。


精一杯の笑顔をくれた梓。

梓の大丈夫と笑顔は、本当に大丈夫な気がするよ。



手術室前の長椅子には、おふくろが姉貴に肩を抱かれて座っていた。


「姉貴……親父はなんで倒れたんだ?」


ボーッと下を向いたままの、おふくろには聞けずに。

姉貴に訊くと、心筋梗塞、と。


「私も、お母さんから電話もらった」


「…そうか…」


おふくろの横に座ると、梓も横に座って。

俺の手にそっと手を重ねて、大丈夫、と頷いてくれる。

俺が手を握り返した時、


「…梓ちゃんも…来てくれたの?」


か細い声で、梓に視線を向けたおふくろに。

はい、と答えた梓に。


「ありがとう。仕事は大丈夫なの?蓮、あんたも」


「大丈夫だ。今日から1週間、二人で有給」


俺が、答えると。

そう、と言ったおふくろの背中を擦る。


「…蓮の彼女さん?姉の唯です。ありがとう、来てくれて」


「はい、倉本梓です。私も心配なので…」


俺の手を握りしめたまま、姉貴と話す梓。



何時間経ったんだろうか。

看護師さんに無事に終わった事を告げられ、救命病棟の一角に案内される。


待ってるから、と言った梓を残して、そこで説明を受けて。

親父と面会すると、今まで見たことのない管に繋がれた親父の姿に息を呑んだ。

例え、退院したとしても……
今まで通り、店に立つのは厳しいだろう。

どうする……

今すぐには、リュミエールから離れられない。



「おふくろ、姉貴。俺は外で待ってる。面会終わったら話しよう、これからのこと」


わかった、と答えた姉貴に対して。

親父の手を握ったままのおふくろの肩に手を置いて。

そこを後にする。
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