これを愛というのなら
" 倉本!2件目の新郎新婦の着替えまだか? "


" はい。もう少し待って下さい。終わり次第、連絡します!"


" 了解。3件目の料理出しが始まってる。ややこしくなるから終わり次第、直ぐに連絡いれろ!"


" わかりました "



" 倉本! A棟で使ってるグラスを2ケースこっちに回せるか? "


" はい、回せます。直ぐに必要ですか? "


" あぁ、足りなくなって来てる。至急、頼む!"


" はい、直ぐに持って行きます!"


" そっちも忙しいのに、すまない。よろしく!"



2階奥の喫煙スペースーーー。


遅めの昼食を持って、蓮はいるかな?と期待を胸に行ってみると。

壁に背中を預けて立っている蓮がいて、心が躍る。



「お疲れさま!」


「お疲れさん。今から昼飯か?」


「そうだよ。宣言通り、蓮が毎週毎週…扱き使うから」


「楽しいだろ?」


「楽しいけど、息が切れるよ。もう少し、お手柔らかに」


はいはい、と私の頭をポンポンと撫でて。

椅子に座っている私の左手を握って。


「インカムに連絡が入るまで」


見上げると優しい瞳で、そう言った蓮に私から指を絡めると、満足そうに笑って。

咥えていた煙草に火を点ける。


ここで、こうして過ごす僅かな休憩時間も。

今年で最後なんだね。

だったら、この僅かな時間も満喫しようよ!


お弁当を食べながら、蓮を見上げると。

そうだな、と微笑んでくれる。

きっと同じ事を思ってたんだね。


煙草が短くなった時。


" 料理長、デザートそろそろ出します!戻って来て下さい!"


インカム越しの副料理長の声だ。


" わかった!すぐ戻る!"


返事をした蓮は、煙草を灰皿に入れて。

愛してる、と言って、繋いでいた手の甲にキスをして。

駆け足で戻って行く後ろ姿を見守る。


よし!まだ今日は長い、楽しもう!



"倉本!4件目の料理出し、押してる。披露宴のお開き時間、10分くらい遅れる。そのつもりで、お見送りの手配頼む!"


そして、また蓮からインカム越しに連絡が入る。


" 了解です "


" 4件目のお見送りが終われば、あと2件だ。梓、頑張れ!"


はじめてだ。

蓮がインカム越しに、梓って言ったのも。

頑張れって言ってくれたのも。

だから、私も。


" ありがとう、頑張る!蓮も頑張ってね "


" おう!一緒に頑張ろう "



繁忙期が落ち着く最終週の日曜日。

蓮はインカム越しに。


梓、あと1件で終わりだ。頑張れ!


私がインカムを付ける最終日に、もう一度、言ってくれた。

二人だけの時の、甘い優しい声で。

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