これを愛というのなら
「お疲れさん!って…邪魔したか?」


今日は、商店街で魚屋を継いでいる蓮の幼なじみの、小野くんが。

朝の仕込みの合間に、朝ご飯を蓮の口に運んでいる時に現れた。


「…お前なぁ…勝手口のインターホン押せよ!」


小野くんも、蓮の言うことを毎度、聞こえていない振りをして。


ご注文の品をお持ちしましたよ、と、冷凍庫横の調理台に置く。


「聞いてんのか?」


それを面倒臭そうに、はいはい!梓ちゃん、と呼び。

コーヒー淹れてよ、と言ってカウンター席に回って、椅子に座って欠伸をする。


小野くんが配達に来た時の、いつもの光景で。

気さくで話しやすい小野くんにも、自然と敬語を使わずに話すようになっていた。


ちょっと待ってね、と小野くん専用になったマグカップを、コーヒーメーカーにセットして、ボタンを押すと。


舌打ちをした蓮が、サンドイッチの残りを、あ~んは?と言って、口を開けた私の口に入れる。



「朝から、相変わらずラブラブだなぁ…俺んとこは、何年も倦怠期だな」


「子供、出来てから?」


マグカップをカウンターに置くと、ありがとう、のあと。


そうだね、我が家は双子の兄弟だからね、と。


「大変で……二人の時間も無いに等しいんだよね、俺も朝は早いし」


「奥さんとたまには、デートしてみたら?数時間でも、おじさんとおばさんに預けて。何かあっても直ぐに帰れるから…ここで、ご飯デートでもどう?」


「それ!いいねっ!さすが、梓ちゃん!ってことで、蓮。スペシャルディナー作ってよ!」


蓮は、面倒臭そうな顔をして。

余計なことを言ってくれたな、とばかりに私を睨むけれど、瞳は優しい。


「わかったよ…奈々枝ちゃんに美味しいもん作ってやるよ」


「おいおい、奈々枝のためかよ!?」


「当たり前だろ?お前のためになんて、気持ち悪い!」


ふふっと笑ってしまう。

何だかんだ言いながらも小野くんの為なのはわかってるよ。

だからね、、、


「旦那様が素直じゃなくてごめんなさい」


「大丈夫、わかってるから」


それを聴いて苦笑いをする蓮は、

気心が知れた友達といると、こんなんだと思うと、今までより愛おしくて堪らなくなる。

だから、つい蓮を見つめてしまう。

ん?と視線に気付いた蓮が、私を見て視線が絡んで、なかなかお互いに逸らせないでいると。



「ところでさ、お前に代替わりしてから甲殻類の注文なくなっただろ?」


ずっと、疑問に思ってたらしい小野くんの声に。

自然と蓮との視線が、小野くんに向く。


「梓が、甲殻類のアレルギーだからだよ。間違って触りでもしたら大変なことになるから、メニューからも全部外した」


「そういうことか……奈々枝も気にしてたんだよ。言っとくよ」


「あぁ…だから、お前らのディナーも甲殻類は使えないぞ?」


わかってる、と言った小野くんに、ごめんなさい、と謝ると。

気にしないで、と爽やかな笑顔をくれた。




それから、1週間後。

蓮は、ちょうど結婚記念日と聴いて、小野くん夫妻のために貸し切りにして。

スペシャルディナーを堪能してくれた。


高校の同級生の奈々枝さんと何回か別れたり、くっついたりして結婚した話も聞けたり。


私も、奈々枝さんとすっかり仲良くなった。


蓮くんと喧嘩したら、いつでも来てね。

帰り際に、そんな言葉をくれた。
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