これを愛というのなら
それからは、他にお客さんも来ず。


松田くんはいつ結婚するんだ?という話になり、

相手もいなくてマッチングアプリを始めたらしい。


蓮も、賢司も、私もお腹を抱えて笑って。


カウンター席の椅子に足を組んで座っている蓮に腰を抱かれ、私が肩に頭を置いて座っているのを見て、テーブル席の椅子から、



「独り身で寂しい俺の前でイチャつくな!」


松田くんは、テーブルに突っ伏して項垂れている。

蓮曰く、お酒の弱い松田くんは大分酔ってるらしい。


そして、いつの間にかテーブルに突っ伏したまま寝息を、立てている。


「少し寝かせといてもいい?」


賢司に、いいよ、とトイレ前の物置から、膝掛けを持って来て掛けてあげると。


「梓は、昔から本当に気が利くよな。疲れねぇの?」


今度は厨房に行って、蓮の空いたビールグラスに生ビールを入れて、蓮に渡した私に問い掛ける。


「疲れる時あるよ。でも、今は蓮が居るから大丈夫。蓮にいっぱい甘えたら、疲れも吹っ飛んでく」


「梓、本当に幸せそう。梓が最後に選んだのが蓮兄で安心したよ。ちょっと心配だったんだよ。梓は、お人好し過ぎるから変な男に捕まってないかなぁって」


なにそれ?って突っ込みなくなって。

まさか、賢司の口からそんな言葉が出るとは思わなかったから。

そんなに好きだった?と聴こうとしたけれど、喉の奥に呑み込んだ。

蓮の前で聴いたら、確実に嫉妬心に火を点けるから。


「たしかにな、お人好しかもしれねぇけど、そんな所も梓だろ。だから……守りたいって思う」


「ほっんとに……蓮兄は梓のことわかってんだな。マジで頼んだよ、梓を」


「あぁ。さっきも言っただろ?任せろって」


「うん、よろしく。にしても兄貴は起きねぇな」


「起きねぇな……ってことで、片付け手伝え!」


厨房から聴こえていた私は、いいよ、と。


「もう、ほぼ終わってるから」


何となく、二人の会話な気がしてそっと片付けを始めていて。

残りはテーブルにある、空いたお皿数枚とグラスだけ。


「いいんだよ、梓。残ってるのだけ洗うよ」


そう言って、席を立った賢司に甘えて、お願いすることにした。


蓮は、松田くんを起こしに掛かる。

揺すっても、ツツいても起きない松田くんの背中を蓮が、まぁまぁな加減で叩くと。

跳ねるように起きた松田くんは、寝てた?と口から漏れている涎を手の甲で拭っている。

起きた衝撃で、床に落ちた膝掛けを拾ってくれた蓮が。

その膝掛けで、松田くんの頭を叩き、、、


「今日は早く帰りてぇんだよ!」


いってぇ!と叫んで、わかったよ。


そこへ賢司が戻ってきて、ご馳走さま、と財布を出そうとすると。

支払いはいいよ、と。


「裕司に附けとく!」


松田くんを顎で指して、蓮が賢司の肩を叩いた。


サンキュ!と、賢司は、まだフラフラの松田くんを支えて、

弟に支えられながら、いつものように手をヒラヒラ振って、ご馳走さん、と帰って行った。

< 142 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop