これを愛というのなら
ーーーその日の19:00。


松田くんは、彼女を連れて来たんだけど。

お冷とおしぼりを出した後、ガスコンロのある厨房の奥に蓮を連れて行って。


「松田くんの彼女ね、入って来た時から見たことあるなって思ってたんだけど…お冷とおしぼりを出した時に、思い出したの!」


「誰だったんだ?」


「……瑠美さんの妹だと思う。瑠美さんの結婚式の前に足袋が破れちゃって、予備の足袋をあげたから覚えてる」


「はぁ!?……どうして瑠美の妹が……偶然だよな?」


「わからない……偶然だと思うけど…何か嫌な予感しない?」


「あぁ……でも……裕司に裏があって近づいたとしたら…理由はなんだ?」


「とにかく、今日は何も聞かない方がいいよ」


蓮が、そうだな、と頷いた時ーー。

なぜか勝手口から入ってきた小野くんの、邪魔するな、の声で、勝手口に視線が移る。


「お前な…表から入って来いよ?」


「いつもの癖だ!それより来てる?」


「来てるんだけどな……裕司に聞かれたらちょっとややこしい事で、あとからでいいからお前に話がある」


「気になるけど……とりあえずわかった」


小野くんは、テーブル席に座る松田くんの所に行って、彼女とも挨拶をしている。


「俺が聞いてくるよ」


蓮もオーダー表を持ってテーブル席に行って、挨拶をしていて。

私も蓮の後ろから会話を見守る。


彼女を見つめる私に、笑顔で挨拶をしてくれて、

蓮の嫁さんの梓ちゃんな、と松田くんに紹介されて、敢えて。


「はじめまして。来てくれてありがとうございます。たくさん食べて行って下さいね」


「あれ…?どこかでお会いしたことありました?」


一瞬、息が詰まってしまったけれど。

いいえ。はじめてだと思いますよ、と必死で笑顔を顔に張り付けた。

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