これを愛というのなら
厨房に戻ると、他にお客さんも来店して、ゆっくり接客も出来なかったけれど。

松田くんが彼女を大好きな事が伝わってきて、何もなく幸せになって欲しいと願ってしまう。

楽しそうに食べてくれて、美味しかったたです、と笑顔で手を繋いで帰って行った。



他のお客さん二組も帰るまで残ってくれていた小野くんだけになって、店を閉めてから。


「悪いな、遅くまで残ってもらって」


「いや、気にするな。それより話って?」


「片付けながらでいいか?」


小野くんにそう言った蓮に、私がするから話して来て、と伝えると。

頼んだ、とカウンター席に回って椅子に座って。


「高校の同級生だった小林 瑠美が、裕司の彼女の妹なんだよ……」


そういえば、松田くんは高校は違うけど小野くんは高校も同じで、浅尾チーフと3人でつるんでたって言っていた。



「えっ……?たしかに小林には妹がいるって奈々枝から聞いた事あるけど……何でわかったんだ?」


瑠美さんが、リュミエールで結婚式をしたこと。

その時に、私が妹さんを諸事情で接客して覚えていたことを蓮が、小野くんに説明してくれた。


「だから………たまたまだったのか…裏があるのか…ってな…」


「裏なんかなくて、たまたまだって思いたいけど……お前のことだから嫌な予感って言うんだろ?」


「よくわかってるな。それで悪いんだが…奈々枝ちゃんに瑠美と連絡取れないか、聞いといてくれるか?」


「連絡取れるか聞く前に……奈々枝から聞いた話で気になる事があるんだよ」


小林のお父さんの会社ってアパレルの大手だろ?

それで、他のアパレル会社と契約して、洋服中心のショッピングモールを作るって話が出てるらしくてな。

その建設予定地の候補を探してるって。

候補として、この商店街みたいな広さが丁度良いって、小林が言ってたらしい。

お前が戻って来る少し前だけどな。

奈々枝は、この商店街は止めてねって半分冗談だと思って、そう答えたんだって。


小野くんの話に、蓮の表情が険しくなる。


「それ、裕司に話したことは?」


「ないない。話したのは、お前だけだ」


「そうか……もしも、そのショッピングモールの候補地がここになって……妹を利用して裕司に近づいたとしたら…?」


「そうは思いたくない……でも有り得ない話じゃない……」


とりあえず今は、何も出来ない。

確証もない。

だから、まだ瑠美さんに連絡は取らずに様子を見ようって事で話は終わって。


小野くんは、奈々枝には話しとく!代金は付けといて!と言って帰って行って。



まだ残っている片付けを二人で終わらせて。

今は、お風呂に入ってから店から持って帰ってきた残り物を食べながら、晩酌をしている。

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