これを愛というのなら
chapter:20
横浜の中心部に建つ“KOBAYASHI”のオフィスビルーーー。


応接室で瑠美さんを待っていると、隣通しでソファーに座る私の手を蓮が優しく握った手は、汗ばんでいている。


「不安?」


「……奈々枝ちゃんの言うように友達だから許せなくてな。冷静に聴けるか……って不安」


「大丈夫。私がいるから」


「あぁ……そうだな」


ギュッと指を絡めて握られた手を離した時に、扉が開く音と同時に。

お待たせしました、と瑠美さんが入って来て向かいに腰を下ろした。


「長谷川くん、久しぶりね。まさか、長谷川くんが実家に戻って来てるなんて…知らなかったわ……」


「残念だったな。俺が戻って来ていて」


「本当にそれよ。長谷川くんだけは敵に回したくなかったわ。大切なものを守るためなら、頭の回転が早いから、とことん相手を口で負かせる人だもの」


「わかってんなら、建設予定地は他を探してくれるか?」


「それは出来ないわ。もう決定したことよ。他社との間でもね」


それより……と、瑠美さんの視線が真っ直ぐに瑠美さんを見ていた私に移って。

可愛らしい人ね、と。


「リュミエールで働いてた方よね?」


「はい、覚えて頂いていて光栄です。今日は、はせがわの家族として同行しました。つまり、商店街は私に取っても大切な場所なので」


「あら、長谷川くんと結婚したのね。それより今日、わざわざ訪ねて来たのはそれだけかしら?」


瑠美さんの視線が再び、蓮を捉えるけれど。

おそらく、瑠美さんは気付いていない。

私たちがわざわざ訪ねて来て、聞き出そうとしている確証に。


「それだけなわけないだろ。単刀直入に訊く。松田鮮魚の松田 裕司を妹とマッチングアプリで知り合わせて、味方に着けようとしただろ?」


やはり気付いていなかった瑠美さんは、大きな瞳を見開いて。

どうしてそれを?!と呟いて、視線を彷徨わせている。


瑠美さんの妹が、松田くんとウチにご飯を食べに来た時に私が、妹だと気付いた事を伝えてくれると、


「……っ……そうだったの……ごまかしたり出来ないわね……その通りよ!高校が一緒じゃない彼を敢えて狙ったのよ」


「最低だな……」


蓮は鋭い瞳のままに、瑠美さんから視線を逸らさない。

怒りを必死で堪えて冷静に話そうとしているんだろう。

太腿の上で組んでいる手が震えている。


「昔ながらの商店街は結束力が強いから、こうでもしないと手に入らないわ!」


「だからって、人の心を利用するのは間違ってる。俺は許さない、そんなお前を。皆が守ってきた商店街を、俺たちが守る。お前の会社には渡さない。汚い手をこれ以上、使われようと屈したりしない。覚えとけ!」


蓮は私の手を握って、帰るぞ、と立ち上がらせてくれると。


見損なった、お前を。


ソファーに座る、瑠美さんを上から睨む蓮の瞳は、

今まで見たことのない冷たい瞳で、瑠美さんは固まったまま。

私もゾクっと背筋が震えた。
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